文部科学省は3月22日、2025年度から中学校で使われる教科書の検定結果を公表した。現行の学習指導要領に対応した中学校教科書の検定は今回が2度目。10教科計103点の申請があり、100点が合格した。このうち97点に動画や音声などのデジタル教材へ誘導する二次元コード(QRコード)が掲載されており、24年度からデジタル教科書が本格導入される外国語(英語)の1年生の教科書を現行版と比較したところ、掲載量が6 割以上増えていた。「GIGAスクール構想」によって小中学校に1人1台のデジタル端末が配備されたことを受け、各社とも対応を強化していることがうかがえる。
文科省によると、社会の歴史的分野の申請教科書のうち2点に関する検定の内容が外部に漏れていたことが確認され、この2点については合格か不合格かの判断を出さずに審議が継続されることになった。また、技術・家庭(技術分野)の教科書1点が、100ページあたり120カ所以上欠陥を指摘され、検定のルールに基づき、年度内の再申請が認められない「一発不合格」となった。このほか、高校の外国語の教科書1点の申請があり、合格した。
文科省は1人1台の端末の普及と合わせ、デジタル教科書の利用を順次拡大していく方針だ。24年度から小中学校の英語でまず導入し、25年度以降に算数・数学へと広げていくことにしている。
教科書へのQRコードの掲載は既に定着しつつあるが、デジタル教科書の導入本格化を見据え、今回はQRコードの掲載数を一層増やす動きがみられた。デジタル教科書が先行導入される英語について、教科書会社6社の1年生の教科書を現行版と比較したところ、QRコードの掲載数は約300カ所から約500カ所へと増加していた。
一方、さまざまな価値観の尊重や社会の多様性に関する記述が充実したのも、新しい教科書の特徴だ。事実婚や夫婦別姓、同性婚といった新しい家族の在り方について記述した教科書は、現行版の6点から13点へと増加。「LGBTQ」などの性の多様性や男女差別について取り上げた教科書も増えた。文科省は「社会の時事的な動きをとらえ、取り扱いを増やしているのではないか」とみる。
SNSの影響力が高まる中、インターネット利用のリテラシーを巡る記述にページを割く教科書もみられた。国語や社会(公民的分野)、保健体育、技術・家庭(技術分野)、道徳などの幅広い教科書が「フェイクニュース」「ファクトチェック」について扱ったほか、デジタル空間で見たい情報ばかりに触れるようになる「フィルターバブル」や、価値観の似た人たちがSNSで交流することで特定の意見や思想が強化される「エコーチェンバー」に触れる教科書もあった。また、ChatGPTの登場などによって利用が急速に拡大している「生成AI」を取り扱う教科書も8点あった。
新たな教科書は今年夏ごろに各地の教育委員会で採択され、25年度から学校現場で使用される。
年度末に結果が公表される教科書検定で、合格か不合格かが決まらない教科書が出るのは異例だ。文科省教科書課によると、少なくとも21世紀になってからは初めての事態だという。同課は「審査内容が漏れた経緯を調べるとともに、できるだけ速やかに判断を下したい」としている。
検定規則によると、教科書を申請した出版社は、検定結果が出るまでは資料や審査内容を外部に漏らしてはいけないことになっている。