児童生徒だけでなく、教師も新たな心持で迎える新年度。新しい児童生徒、同僚たちと対面する中で、意外と迷いがちなことの一つは「服装」ではないだろうか。公立小学校で20年教壇に立ち、現在は教師のためのオンラインショップ『センセイカプセル』のオーナーを務める田中美香子氏は、教師が服装やおしゃれに気を遣うことで、思わぬプラス面があると話す。
――教師も服装について悩むことが多いのでしょうか。
例えば平時であればジャージで過ごしてもいいし、スーツを着てもよい。特に明確な決まり事がなく、教師自身にある程度任されているからこそ悩む方が多いと思います。
子どもたちはよく見ていて、服装にまで意識が行き届いている先生のことは分かっているように思います。私自身も現役時代は忙しいながらも、身なりは整えておきたいと心掛けていました。昨年、教え子が教員になったと連絡をくれました。そのときに彼女から「先生は毎日おしゃれをして、生き生きと働いていた。こんな教師になりたいと目標にしている」と言葉を掛けてもらい、とてもうれしかったですね。
――教師が、服装やおしゃれに気を遣う意義はどこにあるでしょうか。
まず、子どもたちとのコミュニケーションのきっかけ作りになります。特に新年度は、「先生と話したいけど、何と話し掛けよう」と困っている子どもも少なくありません。
例えば、『センセイカプセル』で取り扱っていた商品に、サメの刺しゅう入りのポロシャツ、通称「サメポロ」というものがありました。購入していただいた先生に聞くと、子どもたちが「それ何?」と食い付いてくれることが多かったようです。それが子どもとのコミュニケーションのきっかけになったという、うれしい声も聞きました。
忙しそうにしている先生に、子どもたちもなかなか話し掛けることはできません。服装やおしゃれを意識する余裕を見せることで、他愛もない話ができたり、そこから何か相談してくれたりと、子どもたちと向き合う時間も必然的に増えるように思います。
――田中さんは「先生×おしゃれ」を提唱して、教師のためのオンラインショップを立ち上げたり、SNSで悩み相談に応じたりしています。きっかけは何だったのでしょう。
もちろん、私自身おしゃれが好きだったということもあります。それに加え教師を20年間してきて、服装について悩んでいる先生がとても多いことを日々感じてきました。
特に教務主任時代は、若手の先生をサポートする中で、どの先生も悩むところが一緒だなと思ってきました。例えば、入学式や卒業式の服装。「これだと派手ですか」「どんなコサージュをつければいいですか」などと、よく質問されたものです。
式典関連の質問は、今でもインスタグラムで全国の先生から特に多く寄せられます。自信のない服装で式典や行事に参加してしまうと、気持ちも落ち着かず、本来の目的になかなか集中できません。学校に質問できる先輩がいる方はまだいいのですが、私のSNSには「学校で聞きづらくて……」という声が想像以上に多かったんです。
教師のファッションの基準を示せるものや、忙しい教師のためにその基準に沿ったアイテムを集めたオンラインショップがあれば、先生たちの負担を少しでも減らせると感じ活動しています。
ただ学校によって、細かいルールや文化があるのも事実。SNSでお悩みの先生たちには、まず自身の学校の空気感を見極めたり、同僚に質問したりしながら、自分のカラーを出していけばいいのではないかと伝えています。
――「服装」や「おしゃれ」と一口に言っても、さまざまな面があるのですね。
特に若手で自信があまりない先生にこそ、服装やおしゃれに気を遣ってみてほしいと思います。教師には授業力はもちろん、信頼感や元気、ユーモアなど人間性の部分も求められます。ですがそれは、自身の性格によって向き不向きがあったり、習得するまでに時間がかかったりなど、一朝一夕で身に付きません。
一方で見た目を変えることは、誰でも、いつからでもチェレンジできます。中身を磨きつつ、「こう見てほしい」という願望に合わせた服装やおしゃれの助けを借りて学校生活を送ることで、相乗効果になるように思います。
またTPOを子どもたちに伝えることも、教師の役割の一つだと思っています。ですから式典にはジャケットを着る、体育のときは動きやすい服装で、平時は自分の好みに合わせておしゃれを楽しむ……。そういったメリハリのある身だしなみを見せて、子どもたちのロールモデルになっていただきたいです。