「教職員、めっちゃ面白い」そのために行動するのは自分(木村泰子)

「教職員、めっちゃ面白い」そのために行動するのは自分(木村泰子)
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 新年度を迎え、教員として初の学校生活に入った方、初めての異動をした方、学年主任などこれまで経験したことがなかった役割を任じられた方など、さまざまな「初めて」に気持ちが張り詰めている方々が、全国の学校にいるだろう。それでなくても学校は、新年度ごとに子どもたちや教職員の顔ぶれが変わり、誰もが気持ちを新たにスタート地点に立つことになる。期待や喜びがあるとはいえ、不安も大きいはずだ。そこで今回のオピニオンは、改めて教職の魅力について考えるきっかけにしていただくべく、セミナーでの講演にまつわる、あるエピソードをお伝えする。

「教師の魅力を語ろう」と題したセミナーの依頼に

 今年1月、ある県の教育センターから「教師の魅力を語ろう」をテーマに講演依頼を受けた。映画「みんなの学校」から10年が過ぎ、大空小の当時と今をつないだ講演をしてほしいとのことで、教員志望の学生たちが激減する中で「先生っていい仕事だな」と思ってもらえることが目的のセミナーだ。

 依頼を受けたものの、「私がしゃべっても、世代や立場の違いが大きい若者の心には響かないのでは」と感じ、大空小で当時一緒に勤めていた教員たちに協力を求めた。

 昨年12月のオピニオン欄で伝えたように、大空小では従前の「ベテランや管理職が自身の経験値に基づいて若手教員を指導する」というあしき当たり前を全て捨て、若手教員によるチーム「L研」を学校のリーダーとする、校務分掌の大改革を実施していた。そのL研の一期生とも言うべきメンバーが、今では学校のミドルリーダーになっている。このメンバーに、「『教職の魅力をテーマに10分間の動画を作成せよ!』とのミッションを投げ掛けた。

 メンバーは早速集まり、対話を重ね、動画を作成した。あるテレビ番組を模したタイトル画像で始まる本格的なつくりで、前回のオピニオン欄で伝えた「大空劇団」の元団員ならではの、豊かなエンターテインメント性を感じさせるものだった。

「むき出しの子どもたちと共に学び、生きていける仕事」

 動画の冒頭に表れたのは、「泰子さんからの宿題はいつも突然」という一文。私に対する悪口ものぞかせながら、ミッションとして求めた以上の内容で、教員の仕事について語ってくれた。

 メンバーは動画制作に当たり、教職の魅力をテーマに対話を重ねたという。その中でたどり着いた一つの結論は、教員が「教える」のではなく「子どもと共に学ぶ」ことで、子どもが生き生きとし、人を大切にしながら自分の考えももって表現できるようになり、チャレンジできる人間に育っていくということだったという。また、「もちろん教材研究は必要だけど」とした上で、「子どもが安心して過ごすことのできる場所をつくることが教員の仕事だ」と話し、この「安心できる場所」、すなわち「安心基地」をつくることが仕事の楽しさだ、と語り合った。

 当時の大空劇団の団長は、「大空小でボランティア、産休代替講師、正職員として8年間、学校をつくった」と自己紹介した上で、安心基地づくりや子どもの学習権保障について述べ、最後に教職員を続けている魅力についてこう語った。

 「子どもたちは、自分の力だけではどうしようもない家庭環境、学校環境、社会環境の中、体ひとつで精いっぱい生きて、自分の幸せになる力を高めるために学んでいる。そんなむき出しの子どもたちと共に学び、生きていける仕事は他にない。多様な子どもたちと泣いて笑って、怒って喜んで本気で学び、胸が高なる感動がある。そこには愛が生まれる。子どもの数だけ、学びの数だけそれが生まれる。教職員、めっちゃ面白い。こんな面白さを教えてくれた子どもたちや同僚、そして木村泰子校長に感謝している」

自分たちの手で組織文化を変えていこう

 こうした動画は、私にはとてもつくれない。現在はミドルリーダーとしてそれぞれの勤務校で活躍する教員たちが、かつて大空小のL研として学校のリーダーを務めるとともに、学校と地域をつないでコミュニケートする「コミュニティ部」のメンバーとして、地域や外部機関、家庭とつながり合いながら風呂敷を大きく広げ、子どもが伸び伸びと学べる場をつくってきたから、教職の魅力を若者に伝える動画がつくれるのだ。

 もしもこのL研のメンバーが、若手だった時に管理職からの評価で縛られていたり、過剰な競争意識でつぶし合ったりしていたら、自由に息が吸えず、しんどい気持ちになっただろう。ベテランや管理職が進む方向を定めてしまっては、若手は学校で伸び伸びと成長できない。

 だからといって、管理職次第で教職の魅力が上下するというものではない。旧態依然とした風潮が残る学校だったら、自分たちの手で組織文化を変えていくことが必要だ。

 学校の最上位目的は「全ての子どもの学習権を保障する」ことである。それが教員の仕事の根幹だ。上からの評価や周囲の声に惑わされてそれを見誤っては、教職の魅力を十分に知ることがないまま、離職や休職などに追い込まれてしまう。目の前の子どもたちと向き合うことが重要なのに、上から言われたことに忠実に従うだけで教員を続けていては、子どもたちから「将来こんな大人になりたい」と憧れられることもないだろう。

 自分の中に揺るぎない根幹を築いて、あしき学校文化があれば主体的に変えていくことが、教職の魅力を心から実感することにつながるのではないか。必ずできる。行動するのは自分だから。

 

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