教職調整額引き上げや新たな職創設 中教審特別部会が素案

教職調整額引き上げや新たな職創設 中教審特別部会が素案
議論も大詰めを迎えた「質の高い教師の確保特別部会」=オンラインで取材
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 教員の処遇改善や人材確保に関する方策を議論してきた中教審初等中等教育分科会の「質の高い教師の確保特別部会」は4月19日、第12回会合を開き、これまでの審議まとめの素案を検討した。給特法によって公立学校の教員の月額給与に4%を上乗せした額が支給されている教職調整額は、処遇改善のために少なくとも10%以上にする必要があると提言。教諭と主幹教諭の間に「新たな職」を創設し、現在の主任手当よりも高い処遇にすることや、学級担任をしている教員について義務教育等教員特別手当の額を加算すべきだとした。教員の負担軽減のため、小学校の教科担任制を中学年(3~4年生)にも拡大し、持ちコマ数を軽減することも盛り込んだ。

「質の高い教師の確保特別部会」の素案のポイント
「質の高い教師の確保特別部会」の素案のポイント

将来的に時間外在校等時間の月平均20時間を目指す

 この日の会合で示された審議まとめの素案では、教員を取り巻く環境整備の目的は、「学校教育の質の向上を通した、『子供たちへのより良い教育の実現』である」と強調。長時間勤務の是正をはじめとする教員のウェルビーイングを確保するとともに、その専門性を発揮できるようにしなければならないとし、▽働き方改革の加速▽処遇改善▽学校の指導・運営体制の充実――を一体的・総合的に推進するための方向性を示した。

 2019年1月に中教審はいわゆる「学校における働き方改革答申」で、学校や教員が担う業務を①基本的には学校以外が担うべき業務②学校の業務だが、必ずしも教師が担う必要のない業務③教師の業務だが、負担軽減が可能な業務――の3つに分け、時間外在校等時間の上限を原則として月45時間以内、1年間で360時間以内とするガイドラインを策定した。このガイドラインはその後、19年12月に成立した改正給特法によって指針に格上げされ、実効性が強化されている。

 これらを踏まえた学校の働き方改革が進み、22年度の文科省の教員勤務実態調査の推計では、教員の月当たりの時間外在校等時間は小学校で約41時間、中学校で約58時間にまで縮減したが、依然として時間外在校等時間の長い教員がいることや、22年度に精神疾患で病気休職になる教員が過去最多を更新するなどの課題があると指摘。全ての教員が、指針で定められている月45時間以内に在校等時間を収めることを目標として、将来的には時間外在校等時間を月平均で20時間程度にすることを目指すべきだとし、休憩時間の適切な確保やテレワーク、フレックスタイム制度などの柔軟な働き方の導入を促した。

教職調整額は「少なくとも10%以上」に

 処遇改善では、1974年に制定された人材確保法によって、80年には一般行政職と比べて約7%の優遇分が確保されたものの、現在ではその優遇分はわずかになっているとし、80年の優遇分の水準を確保する必要があるとして、給特法の教職調整額を「少なくとも10%以上」とすることで、その水準を確保することを求めた。

 一方で教員の業務は自主的で自律的な判断に基づく業務と管理職の指揮命令に基づく業務が混然一体となって行われており、正確に峻別することや、授業準備や教材研究のどこまでが教員としての職務で、どこからが職務ではないのかを精緻に切り分けて考えることは困難であるとし、労働基準法による一般行政職などと同様の時間外勤務命令を前提とした勤務時間管理を行うことは適当ではないと結論付けた。

 教職調整額の引き上げについて、金子晃浩臨時委員(日本労働組合総連合会副会長、全日本自動車産業労働組合総連合会会長)は「10%『以上』と付いているものの、10%という教職調整額の水準が示されたことに違和感がある」と指摘。「現行の(教職調整額の)4%は当時の超過勤務時間が約8時間相当であるとして設定されたことを踏まえると、この10%というのは、換算すれば20時間に相当する。ただ現在の実態は小学校で約41時間、中学校で約58時間と、大きく乖離(かいり)していると言わざるを得ない。現状のこれだけの時間外在校等時間の勤務があるのであれば、業務に見合った評価としても、あるべき水準は20%以上になるわけで、この『10%以上』があるべき姿として誤認される懸念もある」とした上で、「逆に提示されている10%が将来の超過勤務時間を20時間に抑えていくのだという強い意思の表れと示すのであれば、いつ改善されるのかとなる。その間はいわゆる民間では不払い残業の実態が長く続くとも言える。従って、この10%にするのであるにしても在校等時間を早急に20時間とするためのロードマップを示す必要もあるのではないか」と提案した。

 また、川田琢之臨時委員(筑波大学ビジネスサイエンス系教授)は教職調整額の仕組みを維持する方向性を評価しつつ、「教員の勤務の自発性や創造性、自主性、自律性といったような表現がやや強調される一方で、そのような働き方を考えたときに裏側で注意すべき長時間勤務に歯止めがかかりにくくなる状況を意識した記述がやや少ない印象だ」と述べた。

「新たな職」を創設

 また、素案では、教職調整額の引き上げに加え、職務や勤務の状況に応じた処遇についても言及。

 教諭と主幹教諭の間に「新たな職」を設け、学校内外との連携・調整や若手教員へのサポート、心理、福祉の専門性を生かして教育相談や特別支援教育コーディネーターを担当する場合などにこの「新しい職」を充てるようにする。

 「新たな職」の創設により、教諭(2級)と主幹教諭(特2級)の間に給料表上、新たな級を設ける。この新たな級は現行の主任手当よりも高い処遇とすることが想定されている。

 また、現在一律で支給されている義務教育等教員特別手当について、職務の負担に応じた支給方法に見直し、学級担任は手当額を加算すること、管理職手当を改善することなども盛り込んだ。

 学級担任への手当の増額については、澤田真由美臨時委員(先生の幸せ研究所代表取締役)が「現状の担任業務の過多を認めることになってしまい、今後チーム化していくことに逆行するのではないか」と述べるなど、複数の委員から疑問視する声があった。

小学校中学年に教科担任制を拡大

 学校の指導・運営体制の充実では、教員の持ちコマ数の在り方に着目。特に小学校は中学校、高校と比べて授業にかける時間の割合が多く、持ちコマ数の軽減と業務の精選・適正化を併せて実施していく必要があるとし、高学年で行われている教科担任制を中学年にも広げることを提案した。

 その一方で、国が持ちコマ数の上限を設定して制限をかけることについては、持ちコマ数だけで教員の勤務負担を測るのは十分ではないとして、持ちコマ数が多い教員の校務分掌を軽減するなど、現場の実態に応じて柔軟に対応するのが望ましいとした。

 持ちコマ数について妹尾昌俊臨時委員(教育研究家、ライフ&ワーク代表理事、学校業務改善アドバイザー)は「義務標準法ができた当時は小学校で1日4コマの想定だったが、現状は26コマ以上受け持っている教員が約4割もいる現状であり、勤務時間の中で授業準備はなかなかできない。しかも昔と違ってチョーク&トーク、指導書通りの授業ではだめで、質の高い授業をするというのであれば、持ちコマ数の減はより重要視してほしい」と注文を付けた。

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