教職調整額の引き上げなど 特別部会が議論を取りまとめ

教職調整額の引き上げなど 特別部会が議論を取りまとめ
会合後に「審議のまとめ」を盛山文科相(右)に手渡す特別部会の貞廣部会長=撮影:藤井孝良
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 教師の処遇改善策などを検討してきた中教審初等中等教育分科会の「質の高い教師の確保特別部会」は5月13日、第13回会合を開き、教職調整額を現行の4%から少なくとも10%以上に引き上げる方針などを盛り込んだ「審議のまとめ」を取りまとめた。若手教師のサポートなどを担う「新たな職」を創設し、教諭と主幹教諭の間に新たな級を設けることや、学級担任の義務教育等教員特別手当の額を加算することなどを提言した。

審議まとめについて大筋で了承した特別部会=オンラインで取材
審議まとめについて大筋で了承した特別部会=オンラインで取材

教師を取り巻く環境の抜本的な改革が必要

 昨年6月に設置された特別部会はこれまで、学校の働き方改革の加速や学校の指導・運営体制の充実、教師の処遇改善などをテーマに議論を重ねてきた。昨年8月には学校や教師が担う業務の適正化や学校の働き方改革の実効性を高めるため、「教師を取り巻く環境整備について緊急的に取り組むべき施策(提言)~教師の専門性の向上と持続可能な教育環境の構築を目指して~」を取りまとめている。特別部会としての審議のまとめである「『令和の日本型学校教育』を担う質の高い教師の確保のための環境整備に関する総合的な方策について」では、全国的に一定の高い教育水準を保障している日本の学校教育は、個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実を図り、さらなる高みを目指す一方、GIGAスクール構想の進展やコロナ禍によって再認識された学校の福祉的な役割への対応といった新たな課題を抱えており、教師の長時間労働や教員不足、メンタルヘルス対策など、教師を取り巻く環境の抜本的な改革が必要との認識を示した。

 その上で、教師を取り巻く環境整備の目的として▽教師の健康を守ることはもとより、教師の人間性や創造性を高め、高い専門性を発揮できるようにするとともに、知識・技能等を学び続けられる環境の整備▽新たな学びの実現に向けて、教師の資質能力の向上や多様な人材の教育界内外からの確保により、質の高い教職員集団を実現▽若手教師や教職志望の学生を引き付けるため、抜本的に教職の魅力を向上――の3つを掲げ、学校教育の質の向上を通した、全ての子どもたちのより良い教育の実現を目指すとした。

「審議のまとめ」に盛り込まれた主な方針・施策
「審議のまとめ」に盛り込まれた主な方針・施策

時間外在校等時間は月平均20時間を目指す

 具体策として、学校の働き方改革の加速では、学校・教師が担う業務の適正化をさらに進め、それぞれの教師が多様な業務を抱える「個業」から業務の一部を他の教師と分担する「協働」へのシフトチェンジを徹底。2019年1月のいわゆる「学校における働き方改革答申」で示された①基本的には学校以外が担うべき業務②学校の業務だが、必ずしも教師が担う必要のない業務③教師の業務だが、負担軽減が可能な業務――の3つの分類に基づく業務の適正化や調査の精選、標準を大きく上回る授業時数の見直し、校務DXの加速が必要だとした。

 その上で、勤務時間管理は教育委員会の責務であるとし、教委ごとに在校等時間を公表することや、業務改善に向けた取り組みの進捗(しんちょく)状況を教委が公表する仕組みなどを国として検討すべきだとした。さらに、定量的な目標設定が必要だとして、まずは時間外在校等時間について、月80時間超の教師をゼロにすることを最優先に、全ての教師が月45時間以内となることを目標に、将来的に平均値で月20時間程度への縮減を目指し、それ以降も見直しを継続するとした。

 また、十分な生活時間や睡眠時間を確保するため、終業から翌日の始業までに一定時間以上の継続した休息時間を確保する「勤務間インターバル」を各学校で取り組む必要性にも言及した。

持ちコマ数の上限規制には踏み込まず

 学校の指導・運営体制の充実では、授業の持ちコマ数の軽減を図るため、現在行われている小学校高学年に加え、中学年についても教科担任制を推進し、専科指導のための定数改善が必要だとした。中学校についても、不登校生徒への支援やいじめなどの課題に対応する生徒指導担当教師の全中学校への配置などを提案した。

 課題として挙げられていた若手教師のサポートに関しては、新卒の教師は学級担任ではなく教科担任としたり、持ちコマ数を減らしたりする取り組みができるように、教科担任制の充実に向けた定数改善をしていくことや、若手教師を支えるため、年齢の近い中堅教師に気軽に相談できるような体制の充実が求められるとした。こうした若手教師のサポートや学校内外との連携・調整機能の充実に向けて、「新たな職」の創設を打ち出すとともに、スクール・サポート・スタッフなどの配置充実をうたった。

 一方で、国が授業の持ちコマ数の上限を設定して制限をかけることについては、持ちコマ数だけで教師の勤務負担を測るのは十分ではないとして、持ちコマ数が多い教師の校務分掌を軽減するなど、現場の実態に応じて柔軟に対応するのが望ましいと結論付けている。

現行の給特法の枠組みは踏襲

 教師の処遇改善では、人材確保法によって一般行政職と比べて約7%の優遇分が確保された1980年の水準を確保する必要があるとして、給特法に基づく教職調整額を「少なくとも10%以上」とすることを提言。一方で、学校現場ではどのような業務を、どのように、どの程度まで行うかは、教師自身の自発性・裁量制に委ねる部分が大きく、教師の職務は教師の自主的・自律的な判断に基づく業務と、管理職の指揮命令に基づく業務が日常的に混然一体となっており、正確な峻別は極めて困難であるとの認識を示した。その上で、一般行政職と同様の時間外勤務命令を前提とした勤務時間管理は、教師の職務の特殊性を踏まえると適さないとし、現行の給特法の枠組みを踏襲する方針を示した。

 また、「新たな職」の創設によって、教諭と主幹教諭の間に新たな級を設け、主任手当よりも高い処遇とすることや、学級担任について、義務教育等教員特別手当の額を加算すること、管理職手当の改善を打ち出した。この学級担任への義務教育等教員特別手当の額の加算に関しては、複数担任制など複数の教師で学級担任業務を分担しているケースも考慮し、都道府県・政令市の判断でその分担に応じて支給することも考えられるとした。

教育に関わる全ての関係者が自分事に

「審議のまとめ」について盛山文科相に説明する特別部会の貞廣部会長(左)=撮影:藤井孝良
「審議のまとめ」について盛山文科相に説明する特別部会の貞廣部会長(左)=撮影:藤井孝良

 「審議のまとめ」では、前回会合で複数の委員からの要望があったのを受けて、政府や国民に向けた「おわりに」を追記。「審議のまとめ」の実現のためには、文部科学省をはじめとする行政が教師を支えることはもちろん、「教育に関わる全ての関係者が自分事として、社会全体で学校や教師を支えていくことが必要」だとし、「審議のまとめ」で提言した具体策の実現に向けて、国に対して「予算上、法制上の措置を行い、その社会実装に向けて、これらの改革の実行を確実に行うことを強く求めたい」と強調した。

 取りまとめにあたり、貞廣斎子部会長(千葉大教育学部教授)は「今回議論した事柄に関しては、部会内外にさまざまな意見があり、全ての方々の100%の納得性を調達することは難しかったと理解している。また、残念ながら明日から全ての物事を劇的に変えるような万能薬があるわけではない。『審議のまとめ』には、現時点で実現可能性と実効性が見込まれる多様な手だてが盛り込まれた。これらの手だてを全ての関係者が当事者となり、着実に実装・実現することが肝要だ」と指摘。「提言の中には法律改正や予算措置を伴う施策が含まれている。これらの施策が実現してこそ、全国の先生方が子どもたちに対しより良い教育を行うことができるようになる」と述べ、文科省に対し、「審議のまとめ」に盛り込まれた施策について、早急に具体的な検討に入るよう求めた。

 会合後、貞廣部会長は盛山正仁文科相と面会し、「審議のまとめ」について説明。改めて「この施策の着実な実装・実現をお願いしたい」と要請した。これに対し盛山文科相は「学校における働き方改革のさらなる加速化、学校の指導・運営体制の充実、そして教師の処遇改善。これを一体的・総合的にパッケージで推進するという提言をいただいた。これをしっかり受け止めて、その内容について、文科省を挙げて(法改正や予算確保など)必要な施策の実現に向けて全力で取り組んでいきたい」と応じた。

 特別部会では今後、「審議のまとめ」のパブリックコメントを行った上で、中教審の答申案に向けた議論に入っていく予定。

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