【ライジャケサンタの願い】 ライジャケで水の事故を防げ!

【ライジャケサンタの願い】 ライジャケで水の事故を防げ!
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 昨年は小学生が川やプールで溺れる事故が数多く発生し、昨今は学校や家庭だけでなく、学童保育などでも水難事故への意識を高めていく必要性が求められている。そうした中、香川県を拠点に子どものライフジャケット(救命胴衣)着用の普及活動を行う森重裕二さんは、「ライジャケサンタ」として全国各地の自治体にライフジャケットを寄贈するなどの活動を続けている。なぜ、水の事故は絶えないのか、ライフジャケットが普及しない理由はどこにあるのか、森重さんに聞いた。(全3回)

夏休み前の指導では水の事故を防げない

――森重さんはライフジャケットを全国の自治体に寄贈する活動をされているそうですね。

 そうですね。また、「子どもたちにライジャケを! 思いはただ一つ…大切な子どもたちの命を守ること」を合言葉に、水辺では子どもたちにライフジャケットを着用させようというメッセージを2007年から発信し続けています。

 このインタビューが掲載されるのは6月末なのですよね。夏休み前に取り上げていただけるのはありがたいことですが、実は今からだと、もう今年の夏休みには間に合わないかもしれません…。

――どうしてですか。

 シーズンを通して見てもらうと分かりますが、水難事故はゴールデンウィーク前後から起き始め、夏休みに入るまでに大きな事故が何件か起きます。そこでマスコミが取り上げて話題にはなるものの、次第にニュース性が薄れていくと同時に、海や川のシーズンも終わっていくというパターンが繰り返されています。そうして何も対策が取られないまま、また次のシーズンで悲しい事故が起きるという悪循環に陥っているのです。

 シーズンになってから話題にするだけだと、学校では夏休み前に「海や川は危ないから近づかないように」と話すだけになります。だから子どもの水の事故が絶えないのです。本来なら、人間の身体がそれほど浮かないことや、海や川へ行ったときにライフジャケットを着けることを指導するなどの命を守る指導が必要なのです。

 そのためには、6~7月の水泳の学習でライフジャケットの装着の仕方を教えたり、実際に着用して水中での浮き方を体験させてあげたりする必要があります。となると、逆算して5月中には学校にある程度の数のライフジャケットが用意されている必要があり、3~4月にはライフジャケットの指導について、どうしていくのかを決定しておかなければならなりません。むしろ水のレジャーのオフシーズンにこそ、準備を進める必要があるのです。

水難事故防止策は、オフシーズンこそ大事だと指摘する森重さん=オンラインで取材
水難事故防止策は、オフシーズンこそ大事だと指摘する森重さん=オンラインで取材

子どもたちは「黙って」溺れていく

――とはいえ、夏のレジャーシーズンは目の前です。保護者や教員が水辺の事故について持っておくべき知識や注意すべきことについて、教えてください。

 まず、「人間の体は水に浮かない」ことを知ってほしいですね。物が水に浮くかどうかは体積当たりの重さ、すなわち「比重」で決まります。水を1とすると、人間の比重は0.98ぐらいなので、息を吸った状態でも2%しか水に浮きません。

 ちょっと見てほしい写真があります。これは私がライフジャケットの有効性が理解できるように作った教具で「ウキウキくん1号」といいます(=写真)。人間の形をしていて、水に対する比重が人と同じ0.98になっています。水槽に入れると頭の先だけしか水面から上に出ません。でも、この「ウキウキくん1号」にライフジャケットを着用させて水槽に入れると、顔が水面からしっかりと出るのです。

教具「ウキウキくん1号」を使って「人は浮かない」ことを伝えている=森重さん提供
教具「ウキウキくん1号」を使って「人は浮かない」ことを伝えている=森重さん提供

 人の体は沈みやすいので、水泳指導では「しっかり息を吸って浮く」ことを教えるわけですけが、その結果「自然な状態で人間は水に浮く」と誤解している子どもや大人が少なくありません。その認識は間違っています。息を吐くと沈むので、ストンと水の中に入ってしまうと、沈んだまま一度も水面には上がってこない…こともあります。

 「溺れる」と聞くと、水面から顔や手を出してバシャバシャするイメージがありますが、あれも違うのです。比重から考えて絶対にできない動作で、手が上がればその分だけ顔も沈んでしまいます。

 お風呂で子どもが溺れるのも同じ原理で、静かにスッと沈んでしまって気付けないのです。もし、これが海や川だったら、水が濁っているのですぐには見つかりません。救助も遅れます。大人が付いて一緒に浅瀬に入って、さっきまで近くにいたのに振り返ったら姿が消えていたという事故が、各地で発生しているのです。

 水泳の先生やインストラクターならこうしたことは知っているはずですが、多くの人は知りません。だから水のある場所で何も着けずに簡単に遊ばせてしまうのです。

ライフジャケット着用で水の事故を防ぐ

 こうした知識があるかないかの差は大きいものがあります。一度知ったら、水の事故のニュースの聞き方が変わると思います。「親が目を離した隙に子どもが溺れたなんて、どうせスマホでもいじっていたんじゃないか。注意不足だ」などと思えなくなるはずです。

 事故の事例を調べると、浅瀬で遊んでいた小さなお子さんを見守っていたお父さんが、プラケースと網を岸にいるお母さんに渡して、振り返ったらその子が消えてしまっていた…という事例があったそうです。深みに足を取られて一瞬で沈んでしまったと想像します。自然の水辺は濁っていたり、水面が光っていたりして、沈んでしまうと見つけることが困難になることがあるのです。

 こうした話は水の事故が起こる前に子どもたちには説明してほしいですが、事故が起こった後にも、なぜそうなったのかをしっかり伝えていく必要があります。単に「水辺に近づくな」と伝えるのではなく、どんな形で事故が起こるのか、防ぐにはどうしたらよいかを教えてほしいのです。

 水泳の授業では、浮くことや泳ぐことを教わりますが、人間の体は実際にはそんなに浮かないし、海や川などでは何が起こるか分かりません。急な深みにはまったり、クラゲが寄ってきたりすることもあれば、くしゃみをしただけでパニックになって溺れてしまうこともあります。でも、ライフジャケットさえ着用していればそうした事故を防ぐことができます。

 臨海学校などで子どもたちを引率する先生方には、もし水の近くに連れていくならライフジャケットが必要だということを念頭に置いてほしいと思います。管理職や教育委員会に掛け合って準備しておかないと、事故が起きたときに責任を問われることになりかねません。また、学校設置者が損害賠償請求を受けた際にも、どのような事故防止策を取っていたかが大きなポイントになります。何より「守れる子どもの命を、守れなかった」というショックの大きさは、とてつもなく大きいものがあるのです。

ライフジャケットの知識は、教師にも必要だと話す=オンラインで取材
ライフジャケットの知識は、教師にも必要だと話す=オンラインで取材

【プロフィール】

森重裕二(もりしげ・ゆうじ) 学生の頃からカヌーや渓流釣りなど水辺での遊びに親しむ。2019年春、約20年続けた小学校教諭を退職し、現在は庵治石細目「松原等石材店」の3代目として修行する傍ら、「ライジャケサンタ」としてライフジャケットを自治体に寄付するなど水辺の安全のための普及啓発活動をしている。クローズアップ「小野訓導殉職から100年 水の事故防止に取り組む元教諭」にも登場。

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