【渋谷区午後探究】 進路や職業テーマに進めるマイ探究がスタート

【渋谷区午後探究】 進路や職業テーマに進めるマイ探究がスタート
生徒の考えを引き出しながらアドバイスを送る伊藤指導教諭=撮影:松井聡美
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 今年度から東京都渋谷区の全区立小中学校では、文部科学省の「授業時数特例校制度」を活用し、総合的な学習の時間を年間70時間から約150時間に拡充するなどして、平日午後の時間は探究学習「シブヤ未来科」に充てる取り組みをスタートさせた。同区立上原中学校(浜田真二校長、生徒337人)の中学1年生3クラスではこのほど、一人一人が将来進みたい進路や職業、方向性に関わることをテーマに追究していく「マイ探究」のオリエンテーションが行われた。

自分が進みたい進路や職業をもとに取り組む「マイ探究」

 上原中の1年生は、これまで「シブヤ未来科」の授業で、VUCAの時代やSociety5.0などの未来社会、探究するための情熱、自己理解、働くことなどについて学んできた。

 そうした学びを踏まえ、この日の5、6時間目に「マイ探究」のオリエンテーションが行われた。冒頭にInspire Highが提供する個人探究を支援する動画プログラムを視聴した後、「マイ探究」のテーマを見つける最初の一歩として、思考ツールなどを使って自分の好きや得意を掘り下げながら、「自分のキャッチコピー」をつくることに挑戦した。

 個人で静かに取り組みたい人は教室で、友達と一緒に考えたい生徒はソファがあるラーニングコモンズや廊下のフリースペースなどで、6時間目はそれぞれが好きな場所に移動して活動した。「自分のことって、自分では分からない」と考え込む生徒もいる一方で、多くの生徒は好きなものを次々と上げながら、自分の核となるものを見つけ、ユニークな「自分のキャッチコピー」を考えていた。

生徒らは思い思いの場所で「自分のキャッチコピー」を考えた=撮影:松井聡美
生徒らは思い思いの場所で「自分のキャッチコピー」を考えた=撮影:松井聡美

 次回以降は、いよいよ「マイ探究」のテーマを考えていくフェーズに移るが、生徒たちに話を聞くと、すでにマイ探究のテーマが固まってきているようだ。

 例えば、生物学や天文学に興味を持っているという生徒は「生物学などの学名に使われる言語はラテン語やギリシャ語なのはなぜなのか。また、日本の偉人が少ない理由は言語が影響しているのか」について探究していきたいと目を輝かせる。

 他にも「音楽や絵に心を動かされるのはなぜなのか。抽象的ではなく、きちんと言語化したい」「好きなことを仕事にしたら重荷になるのか? それでも自分は好きを仕事にしたいのかまで考えたい」「ディスパッチャーという飛行管理の仕事に興味を持っている」「スポーツが好きなので、勝利したら何を得られるのかを探究したい」「なぜ人間には飛ぶという機能が備わっていないのか」など、生徒の口から次々とマイ探究のテーマが語られた。

 また、「自分の好きなことはたくさん出てきたけど、これというものがなくて、マイ探究を通して自分がどの方向に進みたいかを考えたい」という生徒も。この日の振り返りで伊藤郷指導教諭は「これからマイ探究を進めていく上で、自分が探究したいテーマが見つからないという人は、気軽に相談してほしい。みんなでマイ探究を進めていこう」と呼び掛けた。

「マイ探究」での教員の役割とは

 生徒一人一人が多様な問いと向き合う「マイ探究」では、教員の役割も大きく変わってくる。伊藤指導教諭は「マイ探究では、個人で活動している時間が多くなる。できるだけ全ての生徒にアプローチしていきたいが、時間の関係もあり、難しいかもしれない」と課題を話す。

 そこで、今後は「意志表明カード」のようなものをつくろうと考えているそうだ。「例えば、表にしている場合は『声を掛けてほしい』という意味で、裏にしている場合は『1人で進めたい』を表すようなカード。それをチェックしながら教員も声を掛けていき、時間や場をデザインしていきたい」と説明する。

 また、「自分と向き合えるのはマイ探究の魅力だけれども、それだけではなく、緩やかに協働しながら進めていきたい」と伊藤指導教諭。うまく進んでいる生徒の取り組みを積極的に共有したり、生徒たちの進み具合を見ながら定期的に「ゼミ活動」も取り入れたりしていく予定だ。

 「例えばスポーツ系のテーマは体育科の教員に、人文系のテーマの子は国語科の教員に相談出来たりするゼミの時間をつくる。加えて、自分のプロジェクトが終わった子は先生役となって、サポートが必要な子についてもらうことなども考えている」と語る。

 今後、マイ探究で学んだことは、Inspire Highが中高生向けに実施する「Inspired100」というコンテストに応募したり、学年末には校内で「探究フェス」も開催したりする予定。また、来年2月には「職業体験学習」も控えており、今年度はマイ探究の学びを生かし、自ら選び、自らアポイントを取ってきた職場で体験学習を行うことも可能にする予定だという。

 「そこで実際に働いてみて、自分の未来の可能性を探ったり、仮説を検証したりしてみてほしい」と伊藤指導教諭は展望を述べた。

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