大阪府の南部、豊かな自然が広がる河南町の古民家に、7~17歳の28人の子どもたちが集う「デモクラティックスクール」がある。その名の通り、子どもたち自身の手で「民主的に」運営されるフリースクールで、今年で創立から丸5年を数える。運営母体であるNPO法人ASOVIVAで代表理事を務めるのは、17歳の若さで着任して以来、子どもたちを見守り続けてきた長村知愛(おさむら・ちあ)さんだ。インタビューの第1回では、スクール「ASOVIVA!」の活動内容や運営方針などを聞いた。(全3回)
――ここASOVIVA!は、とても風情のある古民家を使っています。どのような経緯で、この場所を使用するようになったのでしょうか。
スクールが開校したのは2019年4月で、当時は隣接する千早赤坂村の大きな家の2部屋を間借りしていました。ここに移転したのは約1年後の2020年4月です。
以前、和歌山県にあるカフェを訪れたとき、とても大きな古民家が印象的で、私が楽しそうにしていたら一緒に行った仲間が「そういえば河南町に、今は使われていない古民家がある」と教えてくれたのです。早速コンタクトを試みたものの、なかなか連絡が取れなかったので直接訪問をしてみたところ、たまたま家主さんが草刈りをしていて、家の中を見学させてもらえました。その後は、トントン拍子で話が進みました。
――スクールを開くとなると、もう少しかっちりした場所をイメージしますが、なぜ古民家を選んだのでしょうか。
私自身が古い家が好きなのもありますし、ここには「おばあちゃんの家」的な居心地の良さ、安心感があります。大きな庭もあり、日当たりも良く、子どもたちが伸び伸びと遊ぶ姿が目に浮かびました。
――子どもたちは、どのように集めたのでしょうか。
最初は週2回のプレオープン期間を設け、いろいろなイベントを開催したり、山で遊ぶ催しを開催したりして、スクールのことを紹介していました。そうしているうちに口コミで広がり、少しずつ子どもたちが集まってきました。
現在はホームページで募集をかけていて、まずは見学をしていただき、希望する人は10日間まで体験入学ができます。そこで入学したいと思ったらトライアル期間に入り、その上で「本人が希望していること」「本人が説明を聴く意思があること」「自分のことは自分でできること」「他の子の自由を奪わないこと」などの要件を満たし、子どもたちやスタッフの同意があれば入学という流れになっています。
――思いのほか条件が厳しそうですが、入学に至らないケースもあるのでしょうか。
ほとんどありません。要件を細かく定めているのは、子どもたちが長期にわたって在籍する可能性がある中で、ミスマッチを防ぐためです。例えば、ASOVIVA!は療育の場ではなく、専門のスタッフもいないので、障害のある子への発達支援などはできないことは事前に伝えています。
――現在は、どんな子どもが在籍しているのでしょうか。
下は7歳から上は17歳まで、今年度は28人の子どもが通っています。高校段階にある子の中には、ASOVIVA!の提携先の通信制高校に在籍している生徒もいます。
入学の動機については、やはり多いのは本人の個性・特性が学校で「困りごと」として顕在化し、自信や活力を失ってしまっているようなケースです。でも、それだけではなく、親御さんがASOVIVA!の方針や活動を気に入って入学に至るケースもあります。
――子どもたちは、入学後に変化していくのでしょうか。
難しいのは、何をもって「変化」とするかです。一つの目安となるのは、「素のままの自分」で過ごせるようになることです。その観点で言えば、1カ月もたたないうちに変わる子もいれば、半年以上かかる子、1年以上かかる子もいます。
以前、家族とすら接点を持てないほど部屋にこもりっきりで、うちに来た時も当初はずっと図書室に1人でこもっている子がいました。当時、彼女は中学2年生でしたが、うちで4年間過ごす中で少しずつ素の自分を出せるようになり、最終的には友達とのおしゃべりが大好きになっていました。今年4月に専門学校に進学し、今はアルバイトもやっています。その他に、難関私立大学に進学した子もいれば、クラウドファンディングを立ち上げた子もいます。
同じように変化していく子は、他にもたくさんいます。みんな自分を肯定的に捉えていて、中には「学校に行かなくてよかった」「ここにいたからこそ、いろんな挑戦ができた」などと話してくれる子もいます。
――学校に行けなかった自分に引け目を感じず、肯定的に捉えているのはすごいことですね。
私自身がそうでしたが、学校に「行けない自分」から「行かない自分」に変わった瞬間、とても楽になります。「行けない」という負のスパイラルにいる自分から、「行かない」と選択できる自分に変わることで、前に進んで行けるのです。
子どもは一人一人異なる特性や個性を持っています。それが時に学校では「困りごと」として顕在化し、周囲の大人は「直そう」とします。もちろん、本人も周囲も困っているような場合は対策を講じる必要がありますが、そうでなければ個性や特性を「面白い」と思えばいいのです。
――ASOVIVA!で、子どもたちはどのように過ごしているのでしょうか。
活動は月曜日から木曜日まで週4日間、午前10時から午後5時まで開校していて、その間であればいつ来ていつ帰ってもかまいません。朝と夕方にミーティングがある以外、これといったカリキュラムはなく、子どもたちは自分が思うままに1日をデザインし、遊んだり学んだりしています。
ミーティングでは、行事などの内容について子どもたちが話し合います。一人一人が「お泊り会をしたい」「近隣に旅行へ行きたい」などと提案し、皆で話し合いながら決めていきます。行き先や旅程、現地での活動プログラムなども全て子どもたち自身が決め、宿の予約や予算の管理・執行も行います。ミーティングには大人も加わりますが、基本的には見守り役に徹し、司会や書記も含め、進行は全て子どもたちに委ねます。
――子どもに任せることで、実現不可能な提案がなされることはないのでしょうか。
基本的にはありませんし、たとえそうした提案があったとしても大人から「それは無理」とは言いません。もし、子どもたちが「北海道へ行きたい」と言いだしたら、「そのための予算をどうする?」と問い掛け、実現するための手段を考えてみてもらいます。
ちなみに過去には奈良や和歌山へ旅行に行ったり、野外活動に参加したりしました。今年は8月に淡路島へ行く予定です。
――旅行などにかかる費用は、スクールから出るのでしょうか。
子どもたちが自由に使える活動費を毎月支給しています。例えば、今月は5万2830円を支給しました。余った分は翌月に繰り越され、現在は22万円ほどプールされています。子どもたちはこのプール金を使うことを想定して行事を企画し、足りない分はご家庭の自己負担となります。昨年は、1人2000円で計20人まで宿泊でき、近くに温泉などもある施設を子どもたち自身が見つけてきて、「これはすごい!」と私たち大人も驚きました。
――子ども同士のミーティングは、スムーズに進むのでしょうか。
年上の子が年下の子の意見を聴きながら、驚くほど上手に進めます。実を言うと、今年3月まで1期生の高3の子たちがミーティングを取り仕切ってくれていたので、「この子たちが抜けたら、どうなるのだろう…」と心配していました。でも、出てくるのですよね。残された中から、ミーティングをリードする子が。以前は、「なんで聞いてなかったの!?」と怒っていたような子が、「もう一度言うから、よく聞いておいてね」と優しく問い掛けるなど、その成長に目を丸くしています。
――毎日の活動内容は、一人一人の子どもに委ねられているのでしょうか。
その日に何をするかは、全て子ども自身が決めます。ほぼ1日中工作をしている子もいれば、仲間と一緒に鬼ごっこをしている子もいれば、図書室にこもって勉強をする子もいます。年上の子と一緒に過ごすせいか、小4くらいの頃から自分の進路を考えるようになり、急に勉強をし始めたりします。そうして誰かが勉強をしだすと、周囲の子もそれに感化されて勉強しだすなんてこともあります。このように、勉強が鬼ごっこや工作、ゲームなどと並列の関係にあるのです。
【プロフィール】
長村知愛(おさむら・ちあ) 2003年生まれ、大阪府出身の現在21歳。11歳で学校に行かない選択をし、母とともに居場所づくり活動を始める。15歳の春にNPO法人ASOVIVAを設立し、代表理事に就任。現在は大阪府の河南町にて、築100年の古民家を使って不登校の子供たちが社会的な自立へと向かうためのスクール、デモクラティックスクールASOVIVA!を運営している。