公立学校では、異動などによる教員の入れ替わりがつきものだ。GIGAスクール構想により児童生徒に1人1台端末が整備されて4年目を迎えた今、ICT推進の中心だった教員がいなくなることで、その活用が停滞してしまう学校も出てきている。昨年度、文部科学省の生成AIパイロット校に指定されるなど、ICT活用が進む千葉県船橋市立飯山満中学校(野上浩資校長、生徒318人)でも、3月いっぱいでICT活用をけん引してきた教員が退職。加えて、今年度は約半数の教員が異動などで入れ替わった。しかし、そうした状況の中でも同校では今年度も全教員が生成AIを活用した授業づくりに取り組むなど、ICTを活用した授業改善に取り組み続けている。これまでの流れを止めないためのポイントについて、同校の教員に聞いた。
92.1%━━。この数字は、2023年度実施の全国学力・学習状況調査における質問紙調査で、「1、2年生の時に受けた授業で、PC・タブレットなどのICT機器をどの程度使用しましたか」に対し、「ほぼ毎日」と回答した飯山満中3年生の割合だ。 全国平均が28.9%だった ことと比較しても、同校でICTの活用がどれほど進んでいるかが分かるのではないだろうか。
しかし、そんな同校は今年4月に大きなピンチを迎えていた。まず、3月いっぱいでGIGAスクール構想前から同校のICT活用をけん引してきた教員が退職。加えて、同校に着任1年目の教員が44.4%を占める職員構成となるなど、これまでの取り組みを知る教員が大幅に減った状態で、新年度のスタートを迎えていたのだ。
今年度、同校の研究主任となった美術科の大浜美樹教諭は「私自身もこれまで授業や校務でICTを積極的に活用してきていたが、学校全体でのICT推進については前任者に任せきりだった。しかも、今年度は大幅に教職員が入れ替わり、これまで通りにやっていけるのか不安はあった」と4月当初を振り返る。
それでも、そこから約3カ月後の7月4日、同校は「生成AIと探求 新たな学びの可能性を探る」をテーマとした自主公開授業研究を開催。昨年度の24年1月末に行われた授業研究会同様に、特別支援学級も含めた全学年・全教科で生成AIを活用した授業が行われた。
今年度、同校では生成AIを活用し、生徒の「個別最適な学び」と「協働的な学び」を促進するため、「自己理解力」「自己探究力」「思考力、他価値の理解」「論理的思考力」「対話と協働」の資質・能力ごとに研究グループをつくり、授業づくりに取り組んでいる。
公開授業では、全教員が自身の研究テーマをもとに、各教科の専門知識を生かした授業を展開した。例えば、幼児について学習してきた3年生の家庭科の授業では、国語で学んだ文の構成を生かしながら「ChatGPT」とデザイン作成ツール「Canva」を活用して、「幼児の発達段階に合った絵本」を作成していた。
生徒らはChatGPTを活用して、自分の考えやアイデアを発展させながら絵本の構成や文章を考え、CanvaのAIツールを使ってイラストを挿入していく。自分の考えや思い描く世界観を絵本に反映させるべく、何度も試行錯誤を繰り返していた姿が印象的だった。
また、3年生の国語の授業では、ChatGPTを活用し、ディベートの立論をつくる授業が展開された。生徒たちは予想される質問や反論、それに対する返答などについて、自分たちの論理をブラッシュアップさせていた。
自主公開授業研究には、全国から60人以上の教育関係者が視察に訪れた。視察者からは「昨年度の取り組みを継続できていた」「全体的にGIGAスクール構想がスタートしてからの積み重ねを感じる。ICT機器が子どもたちの中に自然とある」といった評価する声が上がっていた。
公立学校にありがちな「教員の入れ替わり」という窮地を乗り越えるために、同校が意識して取り組んでいるのはどのようなことなのか。
大浜教諭は、まず「学校をオープンな場にすること」を上げる。「授業研究も公開して、いろいろな人に見てもらい、意見をもらうことで、本校の教員のやる気につながる。さらに、学校外に仲間も増えていく」とメリットを話す。
教務主任の内藤亮生教諭も「学校だけで完結していたら、社会の変容についていけない」と強調する。「今はICTだけれども、10年たったらまた違う最先端がくるだろう。社会の変容についていけるかどうかは、学校に外部からの人の流れがあるかどうかがポイントになるのではないか」と話す。
「今回の授業研究にも60人以上の人が来てくれて、さまざまな意見を落としてくれたからこそ、また本校が前に進める。人を呼べるような取り組みをし続ければ、学校は常に進化し続けられる」と実感を込める。
今年度から飯山満中に着任したばかりの教員も、7月の自主公開授業研究会では、生成AIを活用した授業にチャレンジした。再任用の大塚洋教諭もその一人だ。
大塚教諭は4月時点での自身のICTレベルを「クラウド上で何かを共有することさえしたことがなかったし、他の先生たちが話している用語もさっぱり分からなかった」と打ち明ける。
そこからたった3カ月で生成AIを活用した授業にチャレンジできたのは、「分からないことがあれば、ここの先生たちはすぐに教えてくれる。『ちょっと待って』もなく、本当にすぐに教えてくれるサポートがあったからこそ」と話す。
そんな大塚教諭に対し、大浜教諭は「私も大塚先生と同じようなことを体験しながら、これまでスキルアップしてきた」と笑顔を見せる。「職員室で教科や学年の壁を越えてコミュニケーションをとりながら、『向上している』『楽しい』と感じる環境をつくっていくことの大事さを、前任者に教わった。そういう“良かったこと”を続けていくことが、持続可能な組織になっていくために必要なのではないか」と話す。
また、内藤教諭は「一人で背負わないように、みんなで分担しながら取り組んでいる」と、今年度からの体制について話す。
「私一人では前任者のようなことはできないが、みんなで分担することによって、できる幅も確実に広がってきている」
加えて、1人1台端末整備からの3年間で、外とのつながりができたことも大きいという。「校内だけでなく、学校の外にも助けてくれる人がいる。ツールの使い方なども、学校だけで頑張らなくてもいいと思えるようになれたのは本当に良かった」とこれまでの積み重ねを強調する。
今年度は、ICTを活用して「指導の個別化」や「学習の個性化」を図ることによって、学力がどのように推移していくのかについても成果検証していく予定だ。4月に同校に着任した理科の石原一水教諭は「生成AIの活用を始めたばかりなこともあり、生徒に『考える力』が身に付いているのか、まだ分からない状態だ。ただ、どんどん活用していかないとその効果も検証できない。教員側がしっかりとねらいを持ってICTを活用する授業に、これからも挑戦していきたい」と意気込みを語る。
内藤教諭は「本校では教員も生徒もICT活用が日常的になっているからこそ、『どうすれば教育活動に効果的に使えるか?』といった、本来の教員の力を発揮できるシーンが増えてきている」と手応えを感じている。10月に開催予定の今年度2回目の自主公開授業研究に向け、「まだまだ突き進んでいきたい」と前を見据える。