【戦後80年×教育】シベリア抑留、引き揚げ… 学生語り部が継承

【戦後80年×教育】シベリア抑留、引き揚げ… 学生語り部が継承
学生語り部の活動について話す今野さん=撮影:水野拓昌
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 京都府舞鶴市の鴨田秋津市長は10月30日、東京都千代田区のAP東京丸の内で記者説明会を開き、太平洋戦争終結後のシベリア抑留と、その引き揚げという苦難の歴史を発信する取り組みについて、「中学生・高校生を中心とした学生語り部による継承に力を入れていく」として、来年2025年の戦後80年に向けたイベントを東京都内でも開催することを発表した。鴨田市長のほか、学生語り部として活動する大学生も登壇し、若い世代による戦争体験継承の意義を強調した。

 太平洋戦争、日中戦争の終結直前、旧満州(中国東北部)への旧ソ連の侵攻によって投降した日本の軍人、民間人約60万人がシベリアなど旧ソ連各地に抑留、強制労働に従事させられた歴史がある。10人に1人、約6万人が犠牲となった。日本人のシベリア抑留は1956年12月まで11年続き、旧海軍の軍港があった舞鶴市も戦地や旧満州、シベリア抑留からの引き揚げ者を受け入れた。戦後13年間で約66万人が帰国の第一歩をこの地で踏み、市民は引き揚げ船入港のたびに温かく出迎えたという。こうした戦後の苦難を象徴する歴史を後世に語り継ぐため、市は舞鶴引揚記念館の建設など継承活動を続け、2015年、同館所蔵資料のうち570点が「舞鶴への生還 1945-1956シベリア抑留等日本人の本国への引き揚げの記録」としてユネスコ世界記憶遺産に登録された。

舞鶴市の取り組みを説明する鴨田市長=撮影:水野拓昌
舞鶴市の取り組みを説明する鴨田市長=撮影:水野拓昌

 この日の記者説明会で鴨田市長は「戦争体験者の高齢化も進み、体験者なき戦後の始まりを迎えようとしている。戦争体験の次世代への継承は全国的な課題だが、舞鶴市では一歩進んで『次世代への継承』から『次世代による継承』に取り組んでいる」と説明。「若い世代が自ら関心を持ち、史実を伝えていきたいという活動は舞鶴の希望。全国的にも新たな継承活動のモデルになる」と胸を張った。

 学生語り部は、引揚記念館の「語り部養成講座」に中学生3人が参加したことをきっかけに、大人の語り部とは別に17年に発足。後に続く中高生も多く、今年度は中学生21人、高校生19人、大学生5人の計45人が活動している。

 この日の記者説明会に登壇したのは日本大学3年の今野拓実さん。高校生の時、授業の一環でシベリア抑留者だった祖父について調べを進めて、同館の学生語り部を知った。東京在住の今野さんは夜行バスなどで往復して活動に参加している。

 「体験者の話を聞くことを大事にして学びを深めている。長期休暇時の館内案内のほか、大学生のゼミや平和学習で来館した小中高校生との交流も進めている。どうやったら自分たちの言葉で伝えられるか。若い世代だからこそ、若い世代に伝わるものがあると考えて活動を続けている」

 今野さんはこのように話し、戦争を知らない世代が歴史を学び、想像することで平和について考えることの意義を強調した。

 舞鶴市は12月23~26日、東京都千代田区のKITTE地下1階の東京シティアイで特別展示「京都舞鶴世界記憶遺産×日本遺産巡回展in丸の内」を開き、展示のほかに学生語り部を含めた日替わりミュージアムトークを開催する。また、来年3月にも都内でミニフォーラムを計画中だ。この日の記者説明会やイベント計画など同市が首都圏での情報発信に力を入れる背景には、戦後80年の節目に平和教育を前面に押し出し、引揚記念館や同市への修学旅行、教育旅行を誘致したいという狙いがある。

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