早期化より魅力の回復を 教員採用のスタートライン(喜名朝博)

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教員採用試験、民間企業、一般公務員…それぞれに準備が必要

 10月8日付の本紙電子版が報じているように、教員採用試験の早期化の効果について文部科学省が12の自治体に調査を行った。結果、明確なエビデンスを得るには至らなかったというのが実際である。教員養成の場に身を置く立場としても、その効果は薄いことを実感している。さらに、3年生の前倒し受験や秋受験など、現場は激しい変化に翻弄(ほんろう)されている。

 教採早期化の趣旨は、有望な人材の民間企業への流出を食い止めるために、試験の開始日を7月から6月へ、来年度については5月に早めようとするものだ。早めに合格を出し、民間の内定時期に合わせることで、安心して受験してくれるだろうという思惑もある。

 果たしてそうだろうか、教員採用試験には、それなりの準備が必要だ。教職教養、専門教養、実技試験を課す自治体もある。さらに2次試験では、小論文や面接があり、本学でもそのための勉強会を開いている。

 一方、民間企業は、遅くとも大学3年生から就職活動を始めなければならない。そのためのリサーチやエントリーシートの準備など、流れに乗り遅れないよう細心の注意を払っている。一般公務員も、公務員試験のための特別な準備が必要となる。

 教師を目指して勉強してきた学生にとって、民間企業と同時期に合格が決まることは、安心感にはつながるが、それ以上の魅力にはならない。では、教師か民間か、一般公務員かを決めかねている学生にとってはどうか。先述のようにそれぞれに準備があり、合格通知が届くのが早まったとしても、その判断材料としては弱い。

各自治体は前倒し受験で人員確保に躍起

 教員採用候補者を確保する手法として、3年生の前倒し受験も広がっている。東京都では、3年生対象に教職教養と専門教養の試験を実施し、合格者は翌年、小論文や面接試験を受ける。3年生受験で不合格でも、4年生で改めて受験することもできる。一方、横浜市や川崎市のように大学推薦と合わせて3年生の特別選考によって合格を出す自治体もある。大学推薦の枠も増えており、いかに人員を確保するか、いかに抱え込むか、各自治体は躍起になっている。

 もはや選考ではなく競争試験になっている状況にあって、専門的知識や技能が十分でないまま、合格してしまうことに不安も覚える。教員養成の段階で身に付けるべき素養の保障がないまま、合格させてしまっていいのだろうか。採用試験の低倍率化による教員の質の低下の問題は何も解決されていない。

応募人数ではなく、教師を目指す若者を増やす

 採用試験の早期化により試験日が分散すれば、掛け持ち受験により応募者は増える。見かけの倍率は上がるが、最終倍率には何も影響しない。一連の施策は、倍率が上がったことを見せるために行っているように見える。教員になりたいと思っている一定数を、自治体間で奪い合っているだけだ。

 問題の本質は、教師を目指す若者を増やすことである。文科省も「教師を取り巻く環境整備 総合推進パッケージ」を公表し、学校における働き方改革を進め、職としての教師の魅力回復を進めようとしている。

 教師を目指す若者を増やすために、もっと職としての魅力を発信していくべきだとする声もある。現状では、まず魅力を回復することが必要ではないか。労働に見合った給与、仕事量と人員のバランス、学校の情報化の完遂、業務の外部委託化などによって、やっと民間と肩を並べることができ、それがスタートラインとなる。子どもたちの成長に貢献し、自らの成長と喜びにつながるという教師のやりがいや魅力は、同じスタートラインに立ってやっと伝わっていくのだ。

 若者の職業観の変化も受け入れなければならない。定年まで同じ職に就いたままでいるという発想も薄れ、自らのスキルアップのための転職も当たり前になっている。

人口減少社会のグランドデザインに基づく構造的革新が必要

 人手不足が原因で倒産する企業も増えている。あらゆる業種で人手不足は深刻な問題になっており、学校だけの問題ではない。大都市への一極集中も含め、人口減少下の社会の在り方は日本の構造的な問題である。小手先の施策ではなく、日本を俯瞰(ふかん)するグランドデザインに基づく構造的革新が求められる。

 学校教育においても、これまでの学校の在り方を前提としていたら改善は難しい。前例踏襲から脱却し、学校の在り方を再構築する必要がある。学校の在り方を変えようとする動きは学校の魅力、教師の魅力になり、若者をわくわくさせるはずだ。

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