大学在学中に教員不足の問題を知り、教員向けの求人サイト「ミツカルセンセイ」を立ち上げた小谷瑞季さん。教員不足問題が一向に改善に向かわない中、どのようなソリューションを構築・提供することで、この問題に切り込もうとしているのか。インタビューの2回目では、「ミツカルセンセイ」の具体的な仕組みについて聞いた。(全3回)
――教員向けの求人サイト「ミツカルセンセイ」の特徴を教えてください。
教育委員会でも講師登録の募集をしていますが、登録する側の人は「いつ」「どこで」「どのように」働くのか、具体的な情報が全く見えないまま登録しなければなりません。潜在的な教員志望者、いわゆる潜在教員の方々に話を聞いて回る中で、この点が講師登録する際の大きなハードルになっていることが分かりました。
そこで「ミツカルセンセイ」では、「どこで働くのか」「いつから働くのか」「どんな働き方をするのか」について、講師登録する前の段階で分かるようにしました。民間の求人サイトと同様に、働く「場所」「時期」「雇用形態」の3つが分かるようにしたのです。
講師登録をする人のニーズは多様で、フルタイムで働きたい人もいれば、週2~3日だけ働きたい人もいます。すぐに働きたい人もいれば、数カ月先を想定している人もいます。場所についても、「どこでもよい」と考えている人もいれば、「自宅の近くで働きたい」と考えている人もいます。「ミツカルセンセイ」では、そうしたニーズに応じて、求人を探すことができます。
――確かに、都道府県に講師登録をした場合、「自宅から遠く離れた場所で働かされるのではないか」と不安に思う人もいるでしょうね。場所が分かれば安心です。
現状、教員不足問題は、各都道府県・市町村間の人材の奪い合いのように捉えられていますが、実際には各地域に潜在教員の方がいます。そうした人たちに目を向けていきたいと考え、求人広告は原則として学校単位で掲載するようにしました。
ただ、学校単位で募集広告を出すと、「保護者が目にしたときに不安に感じるのではないか」と心配する人もいます。なので、学校単位での掲載が厳しい場合は、自治体単位で掲載いただくようにしています。
――登録者には、希望に合った求人が掲載されたら、通知が届くのでしょうか。
そのような仕組みになっています。現状の講師登録制度では、欠員が生じた場合に、教育委員会の担当者が電話やメールで連絡をするわけですが、「すぐにと言われても難しい」「3カ月前なら可能だったのに」などと断られることも多いと聞きました。そのため、働く時期についても求人広告に明記し、条件に合った求人が出た場合は、登録した人に通知が届くようになっています。
――求人広告に掲載されているのは、働く「場所」「時期」「待遇」などの就労条件だけでしょうか。
その他に、その学校で実際に働いている教員からのメッセージなども掲載されています。具体的に、「最初は不安だったけど、実際に働いてみると楽しかった」「相談しやすい職場です」などの情報が載せられています。学校の雰囲気や職員室の組織風土の見える化は、今後も力を入れていきたいと思っている点です。
――考えてみれば、民間企業の求人サイトでは、古くからそうした情報の発信に力を入れてきました。
おっしゃる通りです。でも、教育委員会という立場からそうしたアピールをする難しさもあると思います。その意味で、「ミツカルセンセイ」では採用側の思いを代弁するような役割も果たしていきたいと思っています。
――教員の場合、年齢やキャリアによって給与が変わるわけですが、その点はどのように示しているのでしょうか。
確かに、この点は難しいものがありましたが、教育委員会ごとにモデルとなる給与額を示していただきました。具体的に、「教職未経験」「教職経験5年」「教職経験10年」の3つの区分でモデルとなる給与を掲載してもらっています。教育委員会の方々にとっては勇気のいることだったと思いますが、おかげさまでユーザーの方々には好評です。
――いわゆるスカウト機能のようなものはあるのでしょうか。
今の時点で、スカウト機能はありません。ユーザーが求人広告に応募をした段階から、採用側から連絡ができるような仕組みになっています。自治体に講師登録をした人の中には、採用側から電話がかかってきては条件が合わずに断る…を繰り返している人もいます。そうした煩わしさがないように、採用側からの連絡は応募があってからできるようにしています。
――サイトは、ブラウザーから閲覧できるのでしょうか。
専用アプリなどをインストールする必要はなく、パソコンやタブレット端末、スマートフォンのブラウザー上から閲覧できます。サイトにアクセスし、登録していただければ、どなたでも閲覧できるようになっています。
――開発・リリースに際して、苦労をした点はありますか。
サイト自体はさほど複雑なものではないのですが、僕自身がエンジニアではないため、一からプログラミングを勉強して構築するのは大変でした。幸い、今はノーコードでシステム開発ができるツールがあるので、それを使って時間をかけて作りました。日中は自治体を回り、夜は家に帰ってプログラミングという毎日でした。
――サイトをリリースするにあたり、制度上の壁のようなものはなかったのでしょうか。
一番の壁は、都道府県の権限である教員の採用を市町村単位で行うことについてです。市町村の担当者としては、いずれ有料で広告を掲載するとなると、その費用負担を市町村がすべきなのか、県費負担教職員の採用は都道府県の役割でないのかとの思いがあります。この点について、都道府県にも意見を聞きましたが、「市町村や学校から、『ミツカルセンセイ』に求人広告を載せたいという話が具体的に出てきたら検討する」とのことでした。
こうして二重構造になっていることについては、文部科学省にも話を聞き、権限を分散するための仕組みだということも理解しました。ただ、結果として教員不足の問題を誰が責任を持って解消すべきなのか、主体があいまいになっている側面もあります。そのため、教員不足問題に向けて、市町村教育委員会にいかに当事者意識を持ってもらうかが大きな壁の一つでした。
もう一つ、セキュリティーも乗り越えなければならない壁の一つでした。学生がつくったサイトですから、自治体の人からすれば心配になるのは当然です。そのため、セキュリティーポリシーを作って説明し、構築後にはプロの人にセキュリティーホールがないかをチェックをしてもらうなど万全を期しました。
――現在のサイトの稼働状況を教えてください。
今時点で300人ほどの登録者があり、そのうち8割くらいの人は、詳細なプロフィールまで記載してくれています。求人広告を出している自治体は4自治体です。現状はまだ試験運用の段階なので3~5自治体程度に抑え、しっかりと実績を残してから、数を増やしていきたいと考えています。
【プロフィール】
小谷瑞季(こたに・みずき) 合同会社Quicken.代表。大阪大学法学部国際公共政策学科4年。過去に大学では起業部zerO-Oneを友人と共同創始し、エコバッグのシェアリングサービスなどを開発。経産省主催の社会起業家アクセラプログラム『ゼロイチ』、一般財団法人Soil主催非営利スタートアップ支援プログラム『Soil 100』、㈱taliki/京都リサーチパーク㈱共催の社会起業家支援プログラム『COM-PJ』に採択。クラウドファンディングでは150万円の支援を調達。2024年夏にサービス提供開始。