保護者や地域からの過剰な苦情や不当な要求による教員の負担が課題となる中、文部科学省は複数のモデル事業を通して学校への支援体制の強化に乗り出している。2024年度から学校管理職OBを教育委員会に配置して相談を受けたり学校に専門家を派遣したりする事業を始めたのに加え、24年12月に成立した24年度補正予算を受けて、民間団体が保護者からの電話を受け付けて内容を整理・分類するモデル事業も新たに導入する。苦情や要求への対応を学校任せにせず、幅広い専門家による支援体制の構築を進めたいとしている。
同省は今年度から「行政による学校問題解決のための支援体制の構築」を進めるモデル事業をスタートさせた。全国11の区市町教育委員会に約400万円、8都府県に約500万円を補助。教育委員会に弁護士や医師、警察OBなどの専門家チームを設置すると共に、学校管理職OBなどを「学校問題解決支援コーディネーター」として配置し、学校や保護者から直接相談を受けて解決する取り組みを進めている。事案によっては専門家を学校に派遣して助言もする。都道府県教委への支援では、これに加えて同コーディネーターによる学校への巡回相談会や、年に1、2回程度、教職員を対象にした研修会なども開いている。
奈良県天理市は、この補助金と市の財源を活用して昨年4月、保護者の要望や相談を受け付ける「ほっとステーション」を開設した。元校長や臨床心理士など約20人と契約し、常時4、5人が同ステーションに勤務。家庭などからの相談に応じている。
同市が23年秋に教職員らに行ったアンケート調査では、「保護者対応を負担に感じている」との回答が70%を超えたほか、保護者対応に悩んで休職する教職員もいたといい、市長のリーダーシップで同ステーション開設を決めたという。開設後、昨年11月末までに寄せられた相談件数はのべ370件、対応件数は176件に上り、毎日夕方、どんな相談が寄せられているか、市長も交えたミーティングを続けているという。
天理市では、同ステーションの開設に合わせて各学校での電話を午後5時以降、留守電に切り替える措置も取り、学校の教職員が帰宅しやすい環境につながっているという。同市教委の山口忠幸次長は「学校から負担が減ったとの声が寄せられている。持続可能な形で今の相談体制を続けていきたい」と話している。
文科省は、来年度予算案にも1億円を盛り込み、同モデル事業をさらに広げる方針。1自治体当たりの補助金が少ないとの声も寄せられていることから、来年度は市区町村教委で約600万円(政令市は約800万円)、都道府県教委で約900万円に増額する。今年春ごろから自治体の募集を始め、4月ごろのスタートを見込んでいる。
この事業に加えて同省は24年度補正予算で「学校における保護者等への対応の高度化事業」の導入も決めた。民間事業者に委託して、保護者から学校に対する電話やチャットなどの対応を民間の窓口でまとめて受け付け、内容を整理・分類する。学校で対応が難しい案件は首長部局につなげて早期解決を図る。併せて、こうしたモデル事業により学校の働き方改革にどんな影響があるかなど効果の検証も行う。近く民間事業者の選定に乗り出す予定だ。
モデル事業を進める同省初等中等教育企画課は「学校だけでは解決が難しい事案が学校運営上の大きな課題となっており、さまざまな専門家と連携した行政による支援が必要だ。各自治体の参考となるようなモデル創出に向けて支援に努めていきたい」と話している。