昨年末の中教審へのダブル諮問(「初等中等教育における教育課程の基準等の在り方について」「多様な専門性を有する質の高い教職員集団の形成を加速するための方策について」)は、これからの教育が単に指導内容だけの問題だけではなく、それを担う教職員の在り方も含め、総合的に考えていかなければ立ち行かない状況にあることを示している。
さらに、学習指導要領に関する諮問では、教育課程の実施に必要となる条件整備についても議論するよう求めている。事実、1人1台端末の活用や学校における働き方改革などでも、自治体間格差が広がっている。保護者の経済格差や子どもたちの体験格差による影響も大きい。学習指導要領は全国一律であっても、それを実施する学校の教育環境はそれぞれ異なる。この条件整備について一定の方向性を示していくことは、分断や格差拡大の歯止めとなるだろう。
昨年12月24日付本紙電子版が報じているように、文部科学省とこども家庭庁は、今後の学習指導要領の改訂に向けた審議に生かしていくため、小学生から高校生年代の子どもたちを対象に、今後の学校での学びの在り方などについて意見を聴取するという。
こども基本法の趣旨を踏まえ、教育施策の策定に向けて子どもたちの声を聴取することが広がっているが、そもそも学習指導要領は、子どもたちと教師のものである。「分かりやすく、使いやすい学習指導要領」を標榜するのならば、次の学習指導要領に教師の声を反映するべきである。「#教師のバトン」が頭をよぎるが、全国学力・学習状況調査の学校質問紙を活用して、学校や教師の声をしっかり聞き、分析し、公表することが必要だ。
これまでの学習指導要領改訂は、どこか遠いところで議論され、現場に降りてくるものだった。ただ、現行の改訂作業では、教育課程企画特別部会が設置され、頻繁に審議経過が伝えられてきた。今回も積極的な情報発信を期待したいが、それでも待ちの姿勢では教師の主体性は発揮されない。
現行の学習指導要領の趣旨に沿った教育活動を進めながら、次の学習指導要領について議論を始めることが必要だ。教師の学びと子どもたちの学びは相似形でなければならない。学習指導要領を教職員のものにするために、主体的・対話的で深い学びで次期学習指導要領を考えていこう。
学習指導要領は完全ではない。時代の流れに合わせる必要もある。だから約10年ごとに改訂される。現行の学習指導要領の趣旨に沿って教育活動を進めながら、その課題は何かを明確にしていくことが、次の学習指導要領を考える第一歩となる。
授業をしながら、子どもたちにとってこの内容の理解は難しいと思ったことはないだろうか。これまでわれわれは、それを教師の授業改善によって乗り越えられると思い込んでいた。しかし、今井むつみ氏が著書『学力喪失」』(岩波新書、2024)で指摘しているように、子どもたちにとってその概念理解自体が難しいのかもしれない。
学習指導要領の目標や内容と子どもたちの実態との乖離(かいり)はないだろうか。子どもたちの学習状況を見ながら、現行学習指導要領の課題を教師の視点で整理していこう。
日本の授業研究(レッスンスタディー)は世界に誇る教師の学びであり、教師のアクティブ・ラーニングを体現するものである。その授業研究を充実するために、学習指導要領に立ち返って議論していこう。
学習指導要領の解説や総則をもう一度読み込み、教科等の本質に迫っていくことが必要だ。その際、教師同士の対話により、多様な視点を獲得しながら議論を深め、指導技術レベルの議論から脱していきたい。
コロナ禍を経て、特別活動の重要性が再認識されている。しかし、授業時数として規定しているのは給食指導を除く学級活動の時間のみである。学校行事などの時数は学校が決めることになっているが、しっかり時間を確保することで特別活動は充実するはずだ。ならば、あえて時数を規定するということも考えられる。
また、学習の基盤となる情報活用能力の育成についても、教科横断的に進めるのではなく、教科の内容として系統的に位置付けるといった提案もできるだろう。カリキュラム・オーバーロードという言葉で済ませるのでなく、子どもたちにとって真に必要な教育の内容と方法は何かを考え、具体的な提案をしていこう。