優れた教員の確保 悪循環を止める戦略とアプローチ(喜名朝博)

優れた教員の確保 悪循環を止める戦略とアプローチ(喜名朝博)
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答申を待たずにできるところから着手を

 昨年末の同時諮問の一つ「多様な専門性を有する質の高い教職員集団の形成を加速するための方策について」は、令和4(2022)年答申(「令和の日本型学校教育」を担う教師の養成・採用・研修等の在り方について)と令和6(24)年答申(「令和の日本型学校教育を担う質の高い教師の確保のための環境整備に関する総合的な方策について)を受け、その実現を加速するための方策を明らかにしていこうとするものである。既に、教員養成部会や質の高い教師の確保特別部会での議論が始まっている。

 今回の諮問の検討事項は、①社会の変化や学習指導要領の改訂なども見据えた教職課程②教師の質を維持・向上させるための採用・研修③多様な専門性や背景を有する社会人などが教職へ参入しやすくなるような制度――の3点である。

 2つの答申を受け、文科省はさまざまな施策を推進してきた。しかし、今回の諮問の「加速」という言葉が表しているように、教員不足、教員選考倍率の低下、教員の質の低下、進まない働き方改革、学校教育に関わるさまざまな課題は悪循環となり、悪化の一途をたどっている。教員は疲弊し、休職の連鎖が起きている。教員定数が充足されないことは、子どもたちに直接影響し、教育の質の低下を招く。

 教員の献身的な努力によって何とか持ちこたえているが、こんな状況が長く続くはずはない。議論を加速するとともに、答申を待たずにできるところから着手していかなければならない。

短期的対応:採用手続きの簡素化

 この悪循環を止めるには、複数の方策を同時並行に進めるパラレルアプローチと、短期的・中期的な両面戦略の2つが必要だ。教員採用選考のハードルを下げることと教員の質の向上は両立しない。また、働き方改革が進めば教員不足がすぐに解消されるという単純なものではない。それぞれの課題解決に必要かつ最適な対策を同時並行で進めることで、悪循環を断ち切ることができる。

 現状に鑑み、必要な対応を速やかに行うのが短期的戦略である。例えば採用手続きの簡素化が挙げられる。臨時的な任用であっても、教員として採用するにはさまざまな手続きが必要となる。欠員による空白を作らないためにも、教員免許や人物確認を前提として、手続きの簡略化を自治体に働き掛けることができないだろうか。労働条件もフレキシブルにすれば臨時的任用のハードルが下がり、学校は助かる。何より多様な人材を投入することができる。

中期的対応:高度専門職の育成

 教員不足を解消するために多様な人材を投入できる仕組みは、すぐにでも必要な施策である。しかし、免許を所持していることが高度専門職を担保するものではない。倍率を上げるために選考を簡素化することも、高度専門職という位置付けに矛盾する。中期的対応によって高度専門職としての教師の養成・採用・研修の在り方を明確にしていくのが、今回の諮問である。

 特に教職課程の在り方は、大学改革と合わせて検討していくべきである。これまでも主張してきた通り、高度専門職をうたうのなら、修士化は必然である。大学4年で選考を受け、大学院では学校でのインターンシップによって専門性を磨くことを考えていきたい。地域に根差した養成によって地域の活性化も期待できる。

教育の質は社会の質である

 画一的な組織からは変革は生まれず、リスクでしかない。高度専門職の集団にもその危うさがある。だからこそ多様な専門性や背景を有する社会人などが学校教育に参画しやすい仕組みが求められているのだ。その実現のためには、画一性を求める学校文化から脱却しなければならない。答申までの議論が、学校組織内の多様性と包摂性の重要性を訴え、自己改革を促すものとなることを期待する。

 声の大きい人や多数派の意見が正しいという誤認、言論の自由の誤った主張、自由と自律の混同、エコーチェンバーとフィルターバブルによる思考の偏り、正しくないと思ってもそれにあらがうことはできないという諦め、そんな空気が流れていないだろうか。それらを明確に否定して、誤りを正し、民主主義を守っていくためにも、学校教育の果たす役割は大きい。

 教育の問題は学校教育だけの問題ではない、社会全体がそのことを強く意識する必要がある。無償化の議論も大切だが、今回の諮問に関する議論は、教育の質の向上について、さらにそれを担う教師の在り方について、広く国民を巻き込んだものにしなければならない。

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