仕事柄、毎日のように何かしらの原稿を書いているが、現在のようにワープロやパソコンなどデジタルを使って物を書くようになって何年になるだろうか。気が付くと手書きで物を書くという行為が、日常生活からほど遠い存在になっていることに気付かされる。
2021年に京都大学の研究グループが漢字の手書きについての研究を報告した。それによると手書きの習得は高度な言語能力の発達と関連しており、手書き能力が高い人ほど結果的に文章作成能力が高くなるという内容であった。日本漢字能力検定(漢検)の06年と16年のデータを比較すると成人の書く能力だけが低下したという結果であったことがこの研究のきっかけとなったという。スマートフォンの普及時期と重なることもあり関連性は高いと考えてもよいだろう。
さて子どもたちである。全国学力調査などの諸調査の関連項目を見ても今のところそのことを裏付ける結果は出ていないようだが、学校現場におけるタブレットの普及を見ると数年後には京都大の研究結果と同じデータが出てくる可能性があるだろう。
東京大学の酒井邦嘉教授(言語脳科学)によれば、「目の前にいない読み手を想像して出力する能力は書くことによって伸びる」と話す。手書きはデジタル機器で書くことよりも脳の広い範囲を使うため教育的効果は高いという。さらに酒井教授は最近の学生の書く能力の低下も指摘している。
学校教育段階で、少なくともメモなど手書きする習慣を常態化することを真剣に考える時代が間近に迫っている。