新年度がスタートした。異動や新任など、職員室のメンバーも替わった年度初めに、どのような校内研修をすれば、より良いチームとしてスタートが切れるのか。「自分の苦手や不安など、弱みを開示する自己紹介がお勧め。それが強みを生かし合える組織や、助け合える組織につながる」と語るのは、年間200校以上の学校で校内研修の講師を務める(株)先生の幸せ研究所の組織開発コンサルタントの大野大輔氏だ。具体的な校内研修アイデアについて聞いた。
――新年度がスタートしたばかりの、入学式や始業式前の1週間でやっておいた方がよい校内研修について教えてください。
まず、年度当初は校長など管理職が学校経営方針やグランドデザイン、学校教育目標などを全職員に話すタイミングがあると思います。その流れで、ぜひやってみてほしい校内研修をお伝えします。
学校経営方針などは、その学校が目指すいわゆる“抽象的”な方向性ですが、その際に、“具体的”に一人一人の教職員がどうしていくのかが示されることは、ほとんどないと思います。
教員一人一人が「どんなことをやっていきたいか=Will」「どんなことができるか=Can」「どんなことをやらなければならないか=Must」という具体を自分たちで描く「対話の時間」を、ぜひ設けてみてください。
一人一人の具体がチーム全体でも共有されていくことが、良い教育を生み出すことにつながります。
また、そうした場で、不安なことや、苦手なこと、助けてほしいことなどを共有しておくと、不測の事態にも助け合えるチームになります。
――不安なことや苦手なことを自己開示するのはなかなかハードルが高いと思うのですが、開示しやすくなるコツはありますか。
自己開示するには、理由が欲しいですよね。その場合は、自己紹介のアップデートをお勧めします。このような「MYトリセツシート」(図参照)を使ってみてはどうでしょうか。このフレームがあることで、プラスのこともマイナスのことも言いやすくなると思います。
こうしたものを使わなくても、「今から対話の時間を取るけれども、まずは自己紹介からやりましょう。得意なこと、好きなことに加えて一つ、何か不安なことや新年度が始まるに当たってドキドキしていることを共有してみましょう」と、口頭で提示するやり方でもいいと思います。とにかく、自己開示する理由をつくってあげることがポイントです。
――年度初めに、なぜこうしたマイナス面の自己開示が重要なのでしょうか。
私は、信頼関係をつくっていく時に大事なのが、弱さの開示だと思っています。
例えば、私の弱みはスケジュール管理や事務仕事です。それを開示しないままに学年主任をやったとしたら、かなり多くの問題が起きるでしょう。
でも、弱みを開示し、同じ学年団に私の弱みの部分が得意な人がいたとしたら、補い合えます。そして、その人の弱みを私の強みを生かして補うこともできるでしょう。
つまり、自分の弱みを共有することで、違う人の強みが発揮されるのです。これが、年度当初にできるかどうかで、1年間の人間関係は大きく違ってきます。自己紹介などでお互いのトリセツをある程度知っておくことは、そのきっかけづくりになります。
この場を成功させる最大のポイントは、その場をつくっている人が、まず自己開示することです。
私も校内研修の講師を務める時には、必ず「私は教員時代、学級崩壊したことあります」と言います。「研修講師でもそうなんだ」とみんな安心しますし、「勇気をもらえました」と言われます。
また、人は「弱み」で愛される側面があります。ですから、ぜひ管理職や主任など、裁量権のある人こそ、弱みを開示してほしいと思います。
例えば、校長が「今年度は学習者中心の学びをやりたい」と宣言しつつも、「でも私自身、そういう学びを実践したことがなく、具体的な進め方は分からないんです」と開示してくれたら、「みんなでその学びを探していこう」と、組織は一丸となっていきませんか。そして、弱みを開示すると、強みで尊敬されるようになります。
――弱みが開示されることで、組織も変わっていくのですね。
弱みや失敗が言えない組織は、非常に危険です。でも、そうした学校現場が多いのも事実です。
私がよく参考にしている話ですが、良い病院は小さいミスが多いそうです。なぜなら、助けを求められるし、すぐ相談できるから、小さいミスを口にしやすい。逆に、悪い病院は大きなミスが増えます。なぜなら、小さいミスの時に言えないからです。
弱みや失敗の開示は、相談しやすい環境をつくる上で重要です。ぜひ、年度当初の自己紹介で意識してやってみてください。
――学校経営方針などを話すタイミング以外でも、こうした対話の場は設定できますか。
4月は全体の会議なども多いと思います。全員がそろっている一体感のある場で、こうした研修を行うと、ワイワイと雑談しやすい雰囲気になります。お菓子などを用意すると、よりいいですね。
こうした研修を行うことで、異動したての先生や新任の先生も職場になじみやすくなります。短くてもいいので、ぜひ時間をつくってみてください。