第5回 危機管理マニュアルの盲点と現場のズレ

第5回 危機管理マニュアルの盲点と現場のズレ
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 学校の危機対応に関する相談では、「マニュアルはあるのに、うまく動けなかった」という声をよく耳にします。書類としては整っていても、実際の現場で活用されていなかったり、内容が共有されていなかったりするケースが多く見られます。これは、形式と実態がかけ離れていることによる、典型的な組織リスクと言えるでしょう。

 時にマニュアルを作ること自体が目的になってしまい、「完成した時点で終わり」という感覚に陥ることがあります。これは、手段が目的化している典型例です。マニュアルは使われてこそ意味があり、現場で機能しなければ存在しないのと同じです。

 ありがちなのは、マニュアルが作成されたまま保管され、更新や共有が行われていないケースです。非常時にマニュアルを読みながら対応する余裕など、現実の現場にはありません。だからこそ、内容を事前に理解し、行動できるようにしておく必要があります。

 そのために有効なのが、作成や改定の段階から、できるだけ多くの教職員を巻き込むことです。「自分が意思決定に関わった」という経験が、内容への理解や当事者意識を高めます。そうすることで自然と中身を確認する習慣が根付き、マニュアルの形骸化を防ぐことにもつながります。

 さらに、どんなに完成度の高いマニュアルがあっても、現場で起きる全ての事態を網羅することはできません。状況は日々変化し、対応には柔軟性と「先を読む力」が必要です。「この状況の先に、何が起こる可能性があるか?」を常に考える視点が大切なのです。マニュアルに書かれていないリスクを想定すること、それこそが真の危機対応力です。

 私たちは、マニュアルを「現場仕様」に落とし込む支援も行っています。「誰が」「いつ」「何をするか」が一目で分かる初動マップを作成し、図や表で可視化することで、迷いなく行動できる体制を整えることができます。

 加えて、マニュアルを「生きた道具」にするには、平時の訓練が欠かせません。ロールプレーやケース研修を通じて、教職員全員が同じ判断基準で動けるようにしておくことが重要です。管理職だけでなく、誰が最初に対応しても一定の水準を保てる組織こそが、真に強い学校なのです。

 危機対応の本質は、「備えた者が動ける」という、シンプルでありながら難しい原則に尽きます。大切なのは、マニュアルを生かす意識と仕組みを学校全体にどう根付かせるか、それが危機管理力の土台になるのです。

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