教育現場では、いまだ根拠に乏しい「勘・経験・気合い」に頼った昭和型の指導(感情先行タイプ)や、表面上は論理的でも実際は主観や押し付けに偏る平成型の指導(マイルドパワハラタイプ)が横行している。これらの型に共通するのは「再現性のない自己流の教育」であり、子どもたちの成長を偶然に委ねてしまう点である。こうした教育から脱却するためには、次の3つの方策が必要である。
第1に、「エビデンスに基づく教育の実践」である。教育心理学や認知科学など、学術的な裏付けのある理論や方法を学び、指導に生かすことで、思い付きではない再現可能な教育が実現できる。もちろん、教育は個別のものであるから、「エビデンスがあるから正しいんだ!」という考えはむしろマイナスになる。重要なのは、指導の多くの選択肢を持つ上で、より客観的な視点で考えていくことである。
第2に、「答えは本人が持っているという教育観」だ。VUCAの時代においては、幸せや正解の形は多様であり、教師の考えを押し付けることのデメリットが大きい。ティーチングからコーチングへ、プレーヤーからファシリテーターへ、求められる役割は変わってきている。押し付けて納得させる技術ではなく、子どもの中のリソースを発見し、その魅力を引き出し、自ら開花するように水を与える支援が大切である。
第3に、「AARサイクルの自走支援」である。未来志向のコンピテンシーを育てるための学びの循環として、「ラーニングコンパス」にも示されているのがAARサイクルである。Anticipation:予測・見通し、Action:行動・実践、Reflection:振り返り・内省を子ども自身が有意に回していけるような手だてが必要である。これがないとどんなに魅力的な活動を行っていても「担任の教師が変わったらゼロベース」になりかねない。
まとめると、昭和型・平成型のような属人的な教育から脱却する鍵は、客観的な視点を持ち、子どものリソースを引き出し、自走サイクルを確立することにある。「自分がどう教えるか」より「子どもがどう学べるか」に軸を置いた教育こそが、これからの時代に必要とされる教員像である。
本連載においては指導場面における昭和型・平成型教員によるNGを具体的に示し、令和型指導の仕方を述べていく。また、令和型教員を増やし、日本の教育をより豊かにしていくために「がくらぼ.アカデミー」という教員コミュニティーを立ち上げた。この記事に共感された方は、ぜひ立ち上げ時の主幹メンバーとなって、講師側に立ってほしい。
【プロフィール】
熱海康太(あつみ・こうた) 20年弱の公立私立の小学校での教職などを経て独立。先生方のための「一番現場に近い」学びのコミュニティー『がくらぼ.アカデミー』主宰。(一社)日本未来教育研究機構 代表理事。著書に『駆け出し教師のための鬼速成長メソッド』(明治図書出版)、『子どもに伝えたいお話100』『6つの声を意識した声かけ50』 (東洋館出版社)、『自己肯定感が高まる声かけ』(CCC メディアハウス)、『学級経営と授業で大切なことは、ふくろうのぬいぐるみが教えてくれた』(黎明書房)、他教育書、児童書など