定数改善へ参院でさらに修正を 給特法改正案で参考人質疑

定数改善へ参院でさらに修正を 給特法改正案で参考人質疑
計画的な定数改善の必要性を説明する広田教授=オンラインで取材
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 教職調整額の段階的な引き上げや「主務教諭」の導入などを盛り込んだ給特法改正案の審議で、参院文教科学委員会は5月27日、佐藤秀美・福島市教育長、植村洋司・全国連合小学校長会顧問、広田照幸・日本大学文理学部特任教授、妹尾昌俊・ライフ&ワーク代表理事の4人から意見を聞く参考人質疑が行われた。衆院で附則が付けられ、修正された改正案について広田教授は、参院ではさらにもう一歩進めて、教員定数の改善に向けた具体策に踏み込むべきだと指摘した。

植村全連小顧問「現在の教諭の給与が引き下げられることのないように」

 改正案では、給料月額の4%を支給している教職調整額を毎年1%ずつ引き上げ、10%にするのをはじめ、教育委員会による教員の業務量管理・健康確保措置実施計画の策定・公表の義務付けや、教職員間の総合的な調整を担う主務教諭の創設などを通じて、教員の処遇改善と働き方改革の推進、組織的な学校運営の一体的な実現を目指す。

 衆院の法案審議では、自民、公明、立憲民主、日本維新の会、国民民主の与野党が合意し、時間外在校等時間を2029年度までに月平均30時間程度に削減する目標や、公立中学校の35人学級の実現を附則に明記する修正案が可決した。

 参考人質疑で、佐藤教育長は「法案は学校における働き方改革、学校の組織マネジメントの強化、教師の処遇改善という、いわば3本の矢を一体的に進めていくものであり、非常に厳しい学校現場の状況を踏まえ、国、教育委員会、首長部局、学校、地域がそれぞれの立場で取り組みを進めるための重要な仕組みを設ける法案だ」と評価。主務教諭の創設についても、自治体の選択肢を増やす観点から賛同を表明した。

 佐藤教育長は実際に、各学校であらかじめ余剰時数を設けずに標準授業時数で教育課程を編成することや、市の職員が兼職兼業の許可を得て、中学校の部活動指導員として活動する「部活サポート職員制度」など、福島市がそれぞれの立場で働き方改革につながる取り組みを展開していることを紹介。「働き方改革は防災と同様、自助・共助・公助の視点が重要だ。教育委員会がしっかりと役割を果たした上で、学校自身も働きやすさと働きがいの両立を目指す改革を進めようという意思が不可欠だ」と話した。

 植村顧問は主務教諭について、東京都ですでに導入されている主任教諭を例に、キャリアアップやモチベーションの向上、力量アップにつながり、経営参画意識を高めることで管理職候補者育成にもつながるなど、そのメリットを挙げた。一方で「給料表上に新たな給を創設し、処遇改善と結び付けることは、その職務と責任に見合った適切な処遇を図るために意義がある。各種手当にも反映すると伺っている。ただし、職務給の観点からは教諭の職務に変更はないので、現在の教諭の給与が引き下げられることのないように、国庫負担上の適切な措置をお願いしたい」とくぎを刺した。

広田教授「少子化が進行しても教員の総数は維持を」

 教員の長時間勤務問題を実証的に研究する広田教授は教員の仕事の絶対量が多いために、働き方改革を徹底しても問題の根本的な解決にはならないと指摘。そのためには教員定数を増やし、教員1人当たりの持ちコマ数を削減する必要があるとし、修正案で教員1人当たりの担当授業時数の削減や教員定数の標準の改定が盛り込まれたことを歓迎しつつ「参議院ではさらに一歩進めて、教員定数の増員に向けた、具体的な足場をつくっていってほしい」と注文を付けた。

 その上で広田教授は、急激な少子化が進む中で、現在の義務標準法の教員定数の算出方法を続けるとどのように教員定数が変化していくかをシミュレーションした結果を提示した。それによれば、小学校の教員定数は23年度には約43万人だったのが、43年度には約32万人、63年度には約25万人に急減するとし、思い切った教員の増加が必要だと強調。具体的には学級担任以外の教員を配置するために義務標準法が定める係数(乗ずる数)を改善することを今回の法案の中にも明記することや、今後10~15年程度は少子化が進行しても教員の総数は維持すること、文部科学省が教職員定数改善計画を再度策定することで、教員採用の長期的な見通しを自治体が持てるようにすることを提案した。

 妹尾代表理事は給特法の改正という、本来手段であるはずのものが目的になってしまっていないかと問題提起。「処遇改善や残業の削減も大事だが、これはプロセスや手段の一つであって、何を目指しているのかをしっかり考えないと、(教職調整額が)10%がいいのか、13%がいいのかという話になってしまう。そうではなくて、良い方が学校教育にもっと来てほしいという話だったと思う」と確認した上で、女性の教員志望者が減少している状況などから、ウェルビーイングな職場づくりの必要性や、教職員定数の改善、学習指導要領の内容の精選、教員の勤務実態調査の継続実施などを求めた。

 

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乗ずる数 義務標準法で教員定数を算定する際に、学級数に掛ける係数のこと。乗ずる数は校種や学校規模によって異なるが、教員定数は学級数に乗ずる数を掛けることで、学級数を上回る教員を配置できるようにしている。乗ずる数の改善で教員が増え、持ちコマ数の軽減など学校現場に余裕が生まれるという声もある。

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