人類の教育の原点は協働 全高長総会で山極壽一氏が講演

人類の教育の原点は協働 全高長総会で山極壽一氏が講演
人類の進化と教育の関係を語る山極所長=撮影:藤井孝良
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 高校の校長らで構成される全国高等学校長協会(全高長)は5月28日、第77回総会・研究協議会をさいたま市内で開いた。研究協議会では、大学と離島の高校が連携して、生徒の探究学習を支援するコンソーシアムをつくった校長が、その成果を発表。また、ゴリラなどの霊長類の研究で知られる前京都大学総長の山極壽一総合地球環境学研究所所長が講演し、人類の教育の原点に立ち返り、他者と協働する学びが求められていると語った。

 総会のあいさつで内田隆志会長(東京都立三田高校校長)は「どのブロックでも急速に進む少子化に伴う学校の統廃合や規模縮小、教員不足が大きな課題になっている」と話し、全高長でもプロジェクトチームで検討した高校の教職員定数の改善に向けた提案を文部科学省に行ったことをアピール。

 中教審で教員養成や研修の見直しの議論が進んでいることを踏まえ、「教員のなり手を増やすために、教員養成の単位を減じることも検討されているが、質を下げずに専門性を高めるためにはどのようにすればいいのか、正面から考えることが大切だ」と強調した。

あいさつに立つ内田会長=撮影:藤井孝良
あいさつに立つ内田会長=撮影:藤井孝良

 研究協議会では、貴島邦伸鹿児島県立楠隼中学校・高校校長が、前任校である同県立大島高校の校長として取り組んだ探究学習の支援体制構築について発表した。

 大島高校は奄美群島にあるが、奄美群島には大学がなく、生徒の探究学習を学術的にサポートする人材が見つからなかった。また、同じ奄美群島内にある高校は小規模校で、離島ということもあり、同世代での交流の機会を持ちにくかった。

 この問題に対し貴島校長は、奄美群島には大学はないものの、来島する外部の研究者が多くいることに着目。8つの大学・研究機関と連携し、高校生の探究学習に協力できる研究者のデータベースを整備し、奄美群島の高校が活用する「奄美群島高校探究コンソーシアム」を2024年に立ち上げた。

 同時に、奄美群島内の高校生が一堂に会して探究学習の成果を発表し、交流する「高校生サミットIN奄美」も開催。貴島校長は「大学のない、海で囲まれた離島は大きなハンディだと思っていた。しかし今は、もしかしたら大学がないからこんなにいろいろな大学が支援してくれたのではないかと思っている。離島の高校であっても、同じ奄美という連帯感を持ちつつも多様な高校と、大学が連携すれば、都会の学校に負けないくらい、いや、それ以上の高校生の学びの世界が広がる」と力を込めた。

 「教育の本質と高校教育の未来」というテーマで講演した山極所長は、動物の中でも教示行動と呼ばれる教育的な行為をするのは、人類以外ではごくわずかな種類の動物しかおらず、教示行為は基本的に教える側が損をしながらも相手に伝え、教えられる側も信頼を寄せている共感関係にあると説明。

 特に人類は食糧を分配し、一緒に食事をすることで社会を形成し、子育ても共同で行うようになった一方、言葉を使うようになって社会が拡大し、文明が発展するにつれて、争いや格差も生まれるようになったという。

 そして、工業化社会によって誕生した近代学校制度について、山極所長は「本当にそれでいいのだろうかと、もう一度疑ってみてみる時代に来ているのかもしれない。現在はどんなことが起こっているのか、過去の経験だけでは予測できない。そういう変化の激しい予測不能な時代に、生き残っていける能力を育てなければいけない。とりわけ『社会能力』というのを育てなければいけない。混沌(こんとん)とした社会の中で仲間をつくる。そういう教育が本当にできているかを、もう一度考えてほしい」と問題提起。

 「校長先生はうかうかしていられない。高校教育をどうつくればいいのかが、真剣に問われている。今はカオスの状態だと私は思っている。一体、教育とは何か。世界と社会をつなぐ窓だと、私は大学でそう言ってきたが、高校からそれをやっていかなければいけない」と呼び掛けた。

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