テーマ
「全国学力・学習状況調査」(全国学力テスト)の目的の一つは、調査結果を活用して、児童生徒への教育指導の充実や学習状況の改善を図ることである。あなたは教頭として、自校において全国学力テストの結果をもとに、どのように学力向上と授業改善に取り組みますか。現任校の状況を踏まえて、具体的に述べなさい。
【テーマの分析・解説】
審査論文では、題意を正確に把握するため、最初にテーマ分析を行いたい。
審査論文は、教頭の立場から記述することを基本とするので、あえて条件には挙げてはいない。
次に論の柱立てを行う。特に取り組みの視点では受審者の創意が試されるわけだが、同時に妥当性や現実性についても注意を払いたい。今回は、その視点に「教員の意識」「校内の環境」「家庭や地域との連携」を設定した。
今年も全国学力テストの調査結果が学校に届いた。詳細な分析資料から、ほどなく児童の実態と課題が明らかになった。知識理解では強みを発揮するが、思考や判断を問われると弱さが垣間見える。これは昨年と同様の傾向であり、この1年間で改善に向かっているという実感がなかなか湧かない。
このように、全国学力テストの結果を、いかにして学力向上と授業改善の取り組みにつなげていくかは、本校においても喫緊の課題である。私は教頭として、校長に指導助言を仰ぎながら、以下の3つの視点からこの課題に取り組んでいく。
課題に全校体制で取り組む上で、教員の意識は極めて重要である。とはいえ教員からは、「調査の母集団が異なるのだから、昨年と比較してもあまり意味がないのでは」「調査学年の結果であって、自分の学年には当てはまらないのでは」といった声が漏れ聞こえてくる。こうした意識は、取り組みの大きな妨げとなる。そこで、2つの方法を提案し、実施する。
まず全教員に対し、テスト問題を解かせてみる。実際に私が問題を解いたときには、求められている学力の中身と、これまでの授業の足りなさを実感することができた。この取り組みから全教員が得るさまざまな感覚を皆が共有することで、日頃の授業を見直す機運を高めたい。
今一つは、質問紙調査の活用である。同様の質問を全学年で実施し、各学年の特性と学校全体の傾向をつかむ。その中で、全学年共通の課題を設定し、学年間で連携して取り組む必要性を確認する。
授業改善の取り組みで大切にしたいのは、教員の創意工夫である。そのために、教員が必要な情報を取りに行きやすい環境を、校内に構築する。教務主任と意思疎通を図りながら、例えば他校での取り組み、紙面やweb公開される優れた実践などを適宜紹介し、活用のきっかけを作る。しかし、教員の創意工夫を引き出す最良の方法は、校内での情報共有と学び合いだと考えている。教員相互が刺激し合い、よりよい方法を提案したり検証し合ったりする環境を作るため、現職研修にこれらの活動の目的と時間を組み込み、教員全員が学力向上と授業改善に取り組んだり協議したりする場を保障する。
また、こうした取り組みに対する継続的な検証も重要である。年1回の調査を待たずとも、ショートステップによる調査の在り方について、無理のない範囲で検討を進めたい。
子どもに身に付いた学力の様相が如実に表れるのは家庭である。質問紙調査から、現任校では家庭学習の計画性や読書習慣などに課題がみられた。このような課題とどう向き合い、改善を図るかは、将来にわたって生きて働く力を育む上で大変重要である。そこで私は、家庭や地域との連携に解決の糸口を求めたい。そのための取り組みの一つが家庭学習の見直しである。
これまでの家庭学習は担任裁量の性格が強く、学校全体では過度な負担にならない配慮を求めるにとどめている。そこで、家庭学習の意義や目的が授業改善の視点と合致するよう見直しを図る。この作業には、保護者や地域の参画を求める。PTA委員会、評議員会、学校運営協議会などで協議題に挙げて直接意見を求めたり、保護者アンケートで広く要望を集めたりして検討資料とする。家庭学習という共通の話題について家庭や地域と共に考え、見直しを図ることで、その後の取り組み状況の把握や指導、評価における家庭の協力にもつなげていく。
学力向上には長期にわたる地道な取り組みが必要であり、授業改善は持続可能なものでなければならない。そのためには、学力テストを活用しながら教員全員が共通の目標を定め、学校をあげて取り組む体制を毎年更新する仕組みが必要である。その仕組みづくりを推進するのは教頭のリーダーシップであるという信念を持ち、私はその役割を果たしていく所存である。