先月28日、安倍晋三首相が辞任を表明した。第1次政権時代を含めると8年余に及ぶ政権運営に対する評価は、本人も会見で述べていたが、ある程度の時間を経過したのち下されるであろう。同首相が行った重点施策の一つが「女性の社会的地位向上」である。指標として挙げたのが「2020年までに指導的地位に占める女性の割合を30%にする」であった。これは教員の世界にも課された指標だったが、15年に教育分野だけ「20年までに20%」と引き下げられた。理由は、15年時点で初中教育機関の女性管理職の割合が15.2%(全国平均)であったため達成困難と判断されたから、と考えられている。19年度時点の女性管理職の割合はどうか。同年度の学校基本調査などから算定すると全体で18.1%となっており、「20年までに20%」の目標達成は微妙といわれている。
実際、女性教員の管理職志向はどの程度なのか。18年に国立女性教育会館が行った調査(「学校教員のキャリアと生活に関する調査」)によると、「管理職になりたいか」という質問では「ぜひなりたい」「できればなりたい」と答えた女性は7.0%で男性の29.0%と比べると大きな差があることが分かる。なりたくない理由について、特に男女差が大きいものを挙げると、「責任が重くなると自分の家庭の育児や介護等との両立が難しい」(女性51.5%、男性34.9%)、「自分にはその力量がない」(女性66.9%、男性51.5%)などであった。前者に関連した管理職への質問の中で「育児や介護等の家庭の負担を担っている女性教員には、管理職になるための試験の受験や研修等を進めにくい」について、54.8%の管理職が肯定的な回答をしている。それを裏付けるかのように、「子どもが未就学から小学生の時期に家事や育児などの家庭生活の役割をどの程度担っているか」の質問に「ほとんどしている」「半分以上している」と回答した女性は79.4%であり、一方で男性はわずか3.5%であった。
これらの結果から分かるように、教員だけでなく大部分の職場において欧米と比較しわが国で女性管理職が少ない原因は、女性が管理職に向いているか否かではなく、「女性は働いていても家事をやるもの」といった意識が風土として根強く残っていることにあるといえる。そのため、女性が管理職になる意欲や能力があっても、管理職として働ける環境を社会全体で構築していかない限り問題の解決には至らない。山形大学の河野銀子教授は、前述の「家事は女性」意識のほかに、中高年女性に対する退職勧奨、校内の最年長女性はインフォーマルな束ね役といった暗黙の慣行、夫妻で管理職になることを避ける慣習などが女性教員のキャリア形成を阻んできたと指摘している。おそらく河野教授が指摘する学校での慣例・慣習の類いは内容の差はあれどの企業にも存在しているのではないか。
コロナ禍の影響で夫婦共に在宅勤務といった機会が増えた。この状況下では家事も子育てもあるいは介護も女性がやれとは男性は言えないであろう。これまで女性に家事などを押し付けていた男性は、この機会にお互いの勤務時間の配分、家事、子育てあるいは介護の分担を配偶者らともよく話し合い、職場において業務の知識やスキルを習得してきたように、家庭での「業務」知識など習得することを強くお勧めする。もしかしたら、新たな自分の発見にもつながるかもしれない。女性管理職への道を妨げる障壁をまずは家庭内から一つ一つ取り除いていくことから真の「女性の社会的地位向上」が始まるのではないだろうか。