厚労省・警察庁の「令和3年中における自殺の状況」(2022年3月)によると、21年中の小中高生の自殺者数は473人(前年499人)であった。先月公表された文部科学白書には「前年と比較して減少したものの、引き続き憂慮すべき状況にある」とある。数の増減ではなく、子どもたちが自ら命を絶つようなこと自体を憂慮すべきだ。そして、学校がなすべきことは憂慮ではなく、具体的な行動である。
子どもたちの自殺予防は、夏休みなどの長期休業明けの状況把握が重要だと言われてきた。教育委員会も休み明けを前に通知を出し、適切な対応を求める。確かに20年から過去5年間の月別数の合計で見ると9月・8月に多い。しかし、この数は全体の約7割を占める高校生の数値に影響されている。校種別に見ると、小学生では1月・11月、中学生では12月・8月、高校生では9月・8月となる。これもあくまでも傾向であり、長期休業明けに限らず、常に緊張感をもって自殺予防教育を行っていかなければならない。
2017年の自殺総合対策大綱の改定により、命や暮らしの危機に直面したとき、誰にどうやって助けを求めればよいかの具体的かつ実践的な方法を学ぶと同時に、つらいときや苦しいときには助けを求めてもよいということを学ぶ教育、いわゆる「SOSの出し方に関する教育」の推進が求められている。
ここで大事なことは、子どもたちがSOSを発信する前提となるきる大人たちとの信頼関係と、それをキャッチする大人たちの感受性だ。だからこそ、そのバックボーンとして自殺の心理や危険因子についての理解が必要になる。
これについては、文科省をはじめ各教育委員会がさまざまな資料を出している。東京都教委は「SOSの出し方に関する教育」を推進するための指導資料をウェブサイトで紹介している。また、文科省のウェブサイトでは、自殺予防に関する通知などが集約されている。子どもたちの命を守るための貴重な資料であり、全ての教職員に一読していただきたい。
夏休みの期間中、学校は子どもたちのSOSをキャッチすることが難しい。「保護者がそばにいれば安心だ」とも言えない状況がある。
若者の自殺対策を取り上げた19年版「自殺対策白書」を見ると、小学生の自殺の原因・動機の計上比率(09年~18年)の上位は、男子で「家族からのしつけ・叱責」(42.9%)「学校問題・その他」(17.9%)、女子では「親子関係の不和」(38.1%)「家族からのしつけ・叱責」(33.3%)となっており、令和になってもこの傾向は変わらない。叱責の内容が学校や学習に関わるものであれば、夏休みはその要因が少ないかもしれない。しかし、保護者と過ごす時間が長いことが、必ずしも子どもたちの心の安定につながらない場合があることを理解しておくべきである。
中学生ではこの傾向が少し変わってくる。男子では「学業不振」(18.7%)「家族からのしつけ・叱責」(18.1%)、女子では「親子関係の不和」(20.1%)「その他学友との不和」(18.3%)が上位となる。令和になると女子に「病気の悩み・影響」があがってくる。この傾向は高校生で顕著になり、男子では「学業不振」(18.2%)「その他進路に関する悩み」(16.4%)、女子では「うつ病」(18.3%)「その他の精神疾患」(12.1%)となっている。令和でも男子の学業不振、女子の精神疾患が上位に上がる。
原因や動機を限定することは危険ではあるが、「家族関係」「学業不振」「精神疾患」の3点が、学校の具体的な行動の視点となる。学校は保護者などからの虐待には敏感でも、家族関係まで把握し、入り込むことは難しい。来年4月に設置予定のこども家庭庁では、教育と福祉の連携が模索されているが、学校現場でも子どもたちとの日常的な会話や保護者の接し方に注意を向け、少しでも違和感があれば詳細に話を聞いたり、スクールカウンセラーにつなげたりすることが必要だ。
また、学校は「学業不振」が自殺の原因の上位になっていることについての認識が弱い。確かな学力はエネルギーとしての「生きる力」となり、教師の授業改善は、子どもたちの命を守ることにつながる。夏休み、そんな子どもたちへ補習を行うことも重要だろう。夏休み明けに少しでも自信をもって登校できるよう支援していきたい。また、精神疾患については、保護者やスクールカウンセラー、医療機関との連携が必須である。最悪を想定した早期対応が求められる。
GIGAスクール構想で整備された1人1台端末は、教師と子どもたちのコミュニケーションツールにもなった。夏休み中の様子を把握するというスタンスで子どもたちとつながることに活用したい。必要なら電話や家庭訪問、登校させるという次のステップにも移ることもできる。誰かとつながっているという実感は、きっと子どもたちの気持ちを強くするはずだ。