教員採用試験の前倒しは、初めの一歩に過ぎない(喜名朝博)

教員採用試験の前倒しは、初めの一歩に過ぎない(喜名朝博)
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企業や公務員と掛け持ちする受験生は少ない

 早ければ教員採用選考試験(以下「教採」)の前倒しの対象となるかもしれない、本学の2年生74人にアンケートを行った。教採の早期実施に「賛成」は23%、「反対」は39%、「どちらともいえない・分からない」は38%だった。メリットとしては「教育実習に集中できる」「合否によらず準備ができる」などが挙げられた。デメリットは「教採に向けた準備期間の短縮」「学校に関わる経験の不足」などが多かった。それぞれにメリット、デメリットがあると答えたのが「どちらともいえない」とした38%ということになる。

 教採早期化の狙いは、民間企業や他の公務員への採用の時期に合わせることで優れた人材の流出を防ぐというものだ。しかしながら、すでに本紙でも伝えているとおり、早期化によって教員を目指す学生が増えるとは考えにくい。教採の勉強は幅広く汎用(はんよう)性も低いため、企業や公務員と掛け持ちして受験する学生も少ない。

 教員を目指している学生にとって教採の時期は関係ない。それよりも早く決めてほしいというのが本音だ。ただ、社会の就職システムに近づくことで、民間企業に早々に就職を決めた友人知人を横目に、なかなか教採の結果が出なくて焦りを感じていた受験生の不安を解消することには貢献するだろう。

 中教審答申を経て、早期化は既定路線になるだろうが、一度変更したら元に戻すことは不可能だ。慎重な議論と各自治体や受験生への丁寧な説明が必要である。特に、各自治体が足並みをそろえることが必須であり、それがかなわなければ、受験生が不安を抱き、倍率はさらに下がることになるだろう。

教員数の不足だけでなく、質の低下も課題に

 東京都では年度当初から必要な教員が配置されていない事態を招いている。それは現在でも解消されず、年度途中の離職者の増加や、それを埋める臨時的任用教員の不足もあって、正常な学校運営ができない学校が増えている。教職員は疲弊し、綱渡り状態だ。問題は、応募人数の減少により必要な教員を確保できないことに加え、低倍率による質の低下である。教員不足の問題は数だけでなく、質にも目を向けなければならない。

 教員を目指す若者の減少という根本的な問題を解消するために、教採の前倒しをすることは初めの一歩でしかない。養成・採用・研修という構造的な問題への対応と、学校における働き方改革を、目に見える形で進めなければならない。

 その一つが給特法の改正かもしれないが、現状の「教職調整額4%」に少し色を付けたところで何も変わらない。財源がないという常套句も、真剣に考えないための言い訳にしか聞こえない。場当たり的、目先の対応だけで責任を果たしたような雰囲気を出しているのが今の政治の流れだが、問題を先送りにしているに過ぎない。

切迫感や危機感が見えてこない

 人口減少社会はGDPを低下させ、もはや世界の中の日本の地位も低下している。そんな厳しい状況の中で、持続可能な社会を創っていかなければならない子どもたちの教育について、もっとビジョンを持ち、確実に実現していくべきである。審議中の第4次教育振興基本計画も、中教審特別部会の次期答申「『令和の日本型学校教育』を担う教師の養成・採用・研修等の在り方について」でも、今の段階では切迫感や危機感が見えてこない。

 「スピード感」は、それを言う人の感覚であり、必要なのは「スピード」なのだ。制度改正などさまざまなハードルがあるのは理解できるが、学校や教員を支える環境を整えることや多様性に対応した学校への転換こそが、子どもたちや保護者、教職員、そして社会のウェルビーイングとなる。それが学校や教員の魅力となり、教員を目指す若者の増加につながるのだ。

 そして、現時点では学校の未来像を示し、「これからの学校教育はこんなふうに変わっていきます。一緒にそんな学校をつくっていきましょう」というアピールでもよいではないか。夢を持つとは、実現可能な未来を描くことだ。

新しい学校づくりのための予算確保を

 教員の大量退職もピークを過ぎた。公務員の定年延長も進行し、これから採用数は減少に転じる。子どもたちの減少も、学校の統廃合や義務教育学校化を加速させる。ここでも教員の数が減る。それが見えているから現状の教員不足を一過性のものと捉え、真剣に対応しないのではないかと邪推したくなる。

 教員数の減少により義務教育費国庫負担金が削減できると考えるのではなく、さらに上乗せして子どもたちの多様性に応じた新しい学校づくりの予算を確保すべきだ。その判断がなければ根本的な改革にはならない。学制150年の節目を迎える今、小手先の対応ではなく、子どもたちが未来を切り拓く学校づくりと、それを担う教員について本気で考え、行動するための元年にするべきである。

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