学校の内外で、独自に勉強会やイベントを企画する東京都練馬区立石神井台小学校の二川佳祐教諭。精力的な活動の中で、周りと足並みがそろわなかったり、温度差を感じたりすることはないのだろうか。学校という組織の中で理想と現実のバランスを取りながら活動する二川教諭に、「仲間を見つける」「周りを巻き込む」をテーマに聞いた。(全3回)
私の生活を語る上で最も大切なのは家族との時間です。「ファミリーファースト」で生活リズムをつくっています。毎日午後6時に、妻と2人の娘と食卓を囲むのが大切な日課で、食後の時間も家族との会話に重きを置き、午後9時には就寝しています。
ですから特別なことがない限り、退勤時間は午後5時台です。
起床するのは午前3時。そこから家を出るまでの時間は、読書などインプットの時間に充てています。学校にはだいたい午前5時か6時に出勤しています。
こうした生活は、4年以上くらい続けています。また、日々の起床時刻や就寝時刻、睡眠の質、出勤・退勤時刻、ToDoなどをエクセルに入力して管理するようにしています。そうすることで、自分の体調やパフォーマンスを客観的に把握できるようにしています。
もしかすると、そういった面もあるかもしれません。
どんな組織にも言えることですが、「これを頑張っています」「こんな夢があります」といった前向きな発言は、職場では照れくさくて言いづらいものがあります。それこそ「意識が高いと引いてしまう人もいるかもしれない」などと、どこか不安に感じますよね。
それは学校現場にも言えます。先生たちは熱い思いを持っています。しかし放課後も会議や分掌の仕事に追われ、学級や授業についての理想と志を語り合う余裕や時間はありません。もちろん、自らがそんな話ができる空気をつくれればいいのですが、私には力がなく、そう簡単にはできません。
ポイントとなるのは、自分が属する世界をいくつも持っておくことでしょうか。
私は「自立とは依存先を増やすことだ」という言葉が好きで、その通りだと思います。例えば自分を支えてくれる面が一つだけだと、不安定ですし、相手の負担も大きい。でも、複数の面で支えられていると安定しますし、安心感があります。
教育改革実践家の藤原和博先生も、職場の「縦の関係」と、家族や友達などの「横の関係」に加えて、それとは違う「斜めの関係」をつくることが大切だと指摘しています。
例えば失敗話をして何か意見をもらいたいときなどは、直接的に支障が出ない、利害関係に属さない人と関係性をつくっていることが、大きな強みになります。私自身も、相談したり、助けたりしてくれる外の世界の仲間が心の励みになっています。
その点については、決して十分とはいえませんが、強いて言うならば、できないことや苦手なことは、はっきり伝えて助けを求めるようにしています。
そもそも、「巻き込む」とか「巻き込まれる」とかは、考えていません。相手が一緒に取り組んでくれるかどうかは、私がコントロールできることではないからです。私のやりたいことに共感して、一緒に取り組んでくれたらラッキーですが、それは私のコントロール外のこと。だから、あまり期待しないようにしています。
私は、自分の半径5メートルしか変えられないと思っています。そして何かを変えたいのなら、最初に変えるのは「自分」なのではないでしょうか。
3年ほど前に元千代田区立麹町中学校校長の工藤勇一先生(現・横浜創英中・高校長)と1対1でゆっくりお話しさせていただく機会がありました。工藤先生は憧れの存在ですし、夢のような時間でした。
ここからは私の想像なのですが、工藤先生は半径5メートルを変え続けてきた方なのだと思います。今の立場だから変えられるのではなく、長年変え続けてきたから、今のご活躍があるのでしょう。
工藤先生の画期的な改革は、どうしても「麹町中だからできる」「工藤校長だからできる」といった間違ったイメージを持たれがちですが、そう思ってしまう人は、工藤先生がこれまで積み重ねてこられたことを考えず、現在という「点」でしかこの改革を見られていないのだと思います。これまでに打ってきたいくつもの「点」があるにも関わらず、です。
私自身は、「〇〇さんだからできる」という考え方は絶対にしないようにしています。とても他力本願な考え方だからです。現状に不満があるのなら、まずは自分が変わって、それが少しずつ周囲に波及して、全体が変わっていく。そんな営みを続けていくしかないと思います。
それは子供に対しても同じで、目の前の子供を変えようとしても、教師がそれをコントロールできるわけではありません。変わるタイミングは、その子自身しか決められないのです。私たちにできるのは、子供たちにそうした環境や機会を与えること。その結果、子供たちが変わろうとしているなら、応援したり、背中を押したり、一緒に喜んだりする、それが教師本来の役割だと思います。
私たち教師は、子供たちに幸せになってほしいと願って職を全うしています。ですから教師自身が幸せを感じていなければ、子供たちに幸せになる方法を教えられません。
同じように、「子供たちがチェンジメーカーになれるような教育をしていこう」と掲げる場合も、まずは自分が体験すること。教師自身が体験して、心から本当にいいと思ったものを子供たちには勧めたいし、そうでなければ伝わらないと思います。
そうやって自分と向き合い、変化し続けられる教師でありたいと、いつも考えています。
二川佳祐(ふたかわ・けいすけ) 小学校教諭。今年度より東京都練馬区立石神井台小学校に赴任。前年度まで武蔵野市立第一小学校で、主任教諭を務める。「大人が学びを楽しめば子供も学びを楽しむ」ことをモットーに、大人の学び場「BeYond Labo」を主宰する。妻と娘をこよなく愛し、「ファミリーファースト」を掲げる二児のパパ。