2020年度に全員担任制を導入した大阪府池田市立北豊島中学校では、その後もPBL型の授業づくりや探究を軸とした修学旅行など、新たな取り組みを次々と展開していった。キーワードは「自律」。生徒はもちろん教職員も、一人一人が当事者意識を持って主体的に動く学校を目指したと大坪真哉校長は語る。インタビューの2回目は、改革の中盤戦以降の取り組みと、そこに込めた思いを聞いた。(全3回)
──20年秋の体育祭の後、学校が変わり始めたとのことですが、その後の取り組みについて教えてください。
その年の秋に生徒会役員選挙があったのですが、定数6に対して17人もの生徒が立候補しました。いまだかつてなかったことです。演説も以前はふざけて笑いを取ろうとする生徒が多かったのですが、この年は「先輩たちのようになりたい」「自分たちで学校を変えたい」「僕はSDGsの○番を実現したい」などと、真面目に語る候補者ばかりでした。聞く側もみんな真剣です。この頃から生徒たちに、「学校は自分たちがつくる」という意識が芽生え始めたように思います。
――生徒主体で、何か動きだしたことはあったのでしょうか。
この年、生徒会が中心となって制服の見直しを進めました。皆で制服に関する困り事を出し合い、制服メーカーさんと話し合いを重ねながら、誰もが快適に過ごせる制服を考えました。その過程では、トランスジェンダーの当事者である西原さつきさんをお招きして講演会も開催しました。最終的には、機能性や経済性、LGBTQなどにも配慮する形で、生徒たちが複数の制服から選択できるようにしました。
私自身は、制服をなくして私服にしても構わないと思っています。でも、現実には市全体の方針との兼ね合いもあるので、難しい側面があります。ただ、小学校までは私服なのに、なぜ中高は制服なのかは、皆が冷静になって考えてみるべきことです。
――服装規定を緩くすると「学校が荒れる」と言う関係者は、いまだ少なくありません。
確かに、学校関係者の「荒れ」に対する恐怖心は根強いものがあります。そのため、多くの学校が昭和的な厳しい指導を続けています。その結果、規則に従う生徒は「善」、従わない生徒は「悪」という二極対立が生まれているのですが、私はこの構図こそ「荒れ」を生む元凶だと考えています。実際に、本校には髪が黒でない子もいますし、おしゃれをしている子もいますが、それが問題行動につながっているような状況は全くありません。
日本の学校は、子どもたちを規則という枠にはめ込み続けてきました。その結果、子どもたちの多くは当事者意識を失い、「自由」の意味を履き違えてきました。自由の裏側には「責任」があり、むしろ規則のない自由な状況の方が、生徒たちには厳しいことなのです。
「自由」「自律」がキーワードになってから学校はものすごく落ち着いています。
――そういえば前回、体育祭を「自由に」任された生徒たちは重圧で大変だったけれど、大きく成長したとの話がありました。
同様の視点から、修学旅行も生徒主体の「探究旅行」に改めました。コロナ禍ということもあって行き先は近隣の京都・大阪とし、生徒たちが「SDGs」をテーマに京都市街やユニバーサルスタジオジャパン、コリアンタウンなどを回るというものです。現地での行動は全て生徒たちに委ねました。
企画を中心となって担ったのは、探究旅行委員の生徒たちです。現地での行動上の注意点、宿泊先でのマナーなども、委員から学年全体に説明させました。そんな中、旅行の直前にある委員が私の所へやって来て、涙目で「私たちは頑張っているのに、みんな好き勝手なことを主張するんです」と訴えてきたんです。
――やはり「自分たちで決める」のは大変なことなのですね。
私はその生徒に、OECDの「Learning Framework 2030」を見せ、「今、君は一人の『当事者』として新たな価値を『創造』しようとしている。そこには必ず対立とジレンマが生じる。だからしんどい。その気持ちは私もよく分かる。でも、これを乗り越えてこそ、皆が『Well-Being』になれるんだ」と説明しました。するとその生徒はきりっとしたまなざしで、力強く「分かりました」と答えました。
――話は変わりますが、北豊島中はICTも積極的に活用されています。活用が広がった経緯を教えてください。
コロナ禍で「GIGAスクール構想」が前倒しされ、1人1台端末が入ってきた段階で、私は端末を生徒主体で使わせることを決意しました。教員より生徒の方が、デジタル機器の使い方には長けているからです。
そして早速、生徒によるICT委員会を立ち上げ、端末の利用に関するルールを作らせました。生徒たちは当初、30近いルールを作りましたが、やはり細かな規則で縛るのは良くないということで、最終的に7つに集約しました。
――「生徒主体で活用」とはいえ、授業での活用を広げるには、教員が前向きになる必要があります。この点はどうされたのでしょうか。
端末には授業支援アプリの「ロイロノート」が入っていましたが、授業でどう使えばよいのか、当初は多くの教員が知りませんでした。そこで立命館守山中学・高等学校の加藤智博先生と國領正博先生に連絡を取り、数人の教員で学校を訪ね、具体的な活用法を学ばせていただきました。
その後、立命館守山での活用法を教員間で共有したところ、「これは便利!」となって、あっという間に端末の活用が広がりました。今では全教員・全生徒がロイロノートを日常的に活用しています。今年度から導入した「Qubena」や「採点ナビ」なども同様です。教員への連絡事項も端末で行っているため、職員朝会もなくしました。全校アンケートも端末を使えば簡単に集計ができるので、業務の効率化にもつながっています。
――そうしてICTの活用が進む中で、探究型の学びも加速していったのでしょうか。
そうですね。先日の公開研では、生徒たちが90分の授業をつくるというプロジェクト型の学習に取り組みました。テーマは「シティズンシップ」と「探究」です。正解がない中で、生徒たちは不安や戸惑いがありながらも、「北豊島中のCMを作ろう」とか「北豊島中のすやすやお昼寝スポットを探せ」とか、実にユニークな授業を作り上げていました。
公開研の後の協議会には、生徒会本部や希望する生徒たちも参加しました。そこで生徒たちに自分たちの授業を振り返ってもらったところ、きちんとした狙いを持って深く考えながら進めていたことが分かり驚きました。どの授業も、見た感じは締まりがなくてダラダラしていたからです。
やはり、授業というのは形が整っていればよいというわけではないんですよね。今回の公開研をきっかけに、本校では授業改善を中心に新しい学校をつくっていこうという方向で、動き始めたところです。
【プロフィール】
大坪真哉(おおつぼ・しんや) 1960年、大阪府池田市生まれ。母は幼稚園の教員、父は警察官。大学卒業後、教員の道を歩む。当初、全国的に学校は大荒れで「学校はえげつない場所」だと知る。授業を成立させるために、一時間の授業の中で「3回は大爆笑をとる」と授業は成立するというモットーを持つ。趣味は家族旅行・料理・スキー。