近年、スウェーデンでも、特定の分野に特異な才能のある子供たちへの教育に注目が集まっている。そうした才能は学校の成績に表れるとは限らず、むしろ学校に溶け込めなかったり、学習意欲を失っていたりする場合も少なくないため、気付くのは容易ではない。こうした子供たちへの教育として、特別クラスを設ける実験がスウェーデンで行われている。
欧州評議会は1994年に、特異な才能をもつ子供たちへの教育を特別なニーズの一つとして重視することを勧告した。個人の違いを認識し、可能性を最大限に伸ばすために十分な教育機会を与えるべきだというのである。
スウェーデンでは5%の子供たちが特定の分野に特異な才能をもつといわれ、2009年度から高校で、12年度から基礎学校高学年(日本の中学校に相当)で、特定分野だけレベルの高い教育を行う「先端教育(spetsutbildning)」の実験が始まった。現在は全国24校で実施されており、27年まで続けられる予定だ。
実験に参加する学校は、数学、理科、社会、英語、その他外国語などの中から一つの分野について、先端教育を行う特別クラスを設ける。
基礎学校では、この特別クラスで、専門分野について高校レベルの科目を履修できる。高校生が受けるナショナル・テストも受けて、履修した科目は高校の単位修得として認められる。本人が望めば、高校入学後にもう一度、その科目を履修することができる。
高校の先端教育では、専門分野について、大学レベルの教育を受けられる。高校レベルの授業のペースを速くして、最終学年に時間を作って発展的・応用的な学習を行う場合もあれば、通常の科目に並行して専門的な学習を行う場合もある。多くの生徒が高校在籍中に大学の科目を履修するが、それは必修ではないし、履修しても最終試験までは受けない生徒もいるという。学校によっては、高校の卒業課題にあたる総合学習を、大学と連携して実施するところもある。
先端教育には、全国どの地域からでも、どの学校にも応募できる。とはいえ、とくに基礎学校については、通学の問題もあって近隣の生徒が多い。高校の中には、遠方からの生徒に住居をあっせんする学校もあるという。
入学に際しては、学校での成績のほか、試験や面接、志願書や在籍校からの推薦書などを用いて選抜が行われる。こうした選抜方法はスウェーデンでは一般的ではないが、スポーツや音楽などの特別クラスでは実技を含めた類似の選抜が行われている。先端教育は、これまで存在しなかった分野での特別クラスとも言える。
先端教育を受ける生徒には、多領域の学習が全般的に良くできる生徒もいれば、特定の教科だけ非常によくでき、他教科の学習には困難を抱えている生徒もいる。通常の学校では理解されにくい生徒の特長をつかみ、十分に伸ばすことが目指されている。
こうした教育は、それを受けている生徒からも、教師や学校からも、肯定的な声が非常に多い。それまで学校にいいイメージを持っていなかった生徒が、刺激的な学習環境を得て生き生きと学習している。授業や学習課題のレベルが高いというだけでなく、関心を共有できる仲間がいることが重要な要因だ。通常クラスで一人だけ特別課題をするわけではない。好きなことを協働で追究し、議論できる環境があり、仲間がいる。該当生徒の学年を早める「飛び級」とも異なる特長だ。
入学後に希望を変更したり、引っ越したりなどの理由で通常のクラスに変更した生徒も少数いるが、先端教育クラスは概して肯定的に受け止められている。特に高校では通常クラスであっても専門分野の異なる学科に分かれているため、特定分野に専門化する先端教育を導入しやすく、受け入れられやすい。
多くの学校が課題として指摘するのはコスト面だ。先端教育クラスで提供される特別な科目の授業は、通常学校にある科目よりも履修者が少ないため開講にコストがかかる。
また、教師の力量も必要だ。発展的な内容を教えるスキルだけでなく、その教科以外では学習や人との関わりに困難があるような生徒も混ざっているため、そうしたことへの理解があり、対応できるスキルが必要になる。
その他に、上級学校との連携の困難さや、希望生徒の少なさを理由に、実験を途中でやめた学校もある。
長い実験期間は終盤に近づいている。どのような総括がなされて、どのような形で本実施が実現するのだろうか。