鹿児島県立出水工業高校の山下優香教諭は、キャリアコンサルタントの資格取得を通じて学校外とのつながりを得たことで、最近ではまちづくりにも関わるようになった。インタビューの2回目は、そうした活動を通じて考えるようになった「地域社会における生徒たちの居場所づくり」と、教師の学校外の居場所の重要性について聞いた。(全3回)
――コロナ禍で文化祭の開催方法に制限がかかる中、地域を巻き込んだ文化祭を開かれていると聞きました。
昨年11月27日には地元の公会堂で、学生合同文化祭「のさったフェス」の2回目を開催しました。「のさった」は鹿児島弁で、「運が来た」「運を呼ぶ」という意味です。きっかけは、1年前に「出水市都市解析ワークショップ」というイベントがあって、そこでZoom越しに出水工業の卒業生と久しぶりに再会したことでした。
再会後すぐにその卒業生から電話があり、盛り上がって話をする中で「地域とつながる面白いことを地域の学生と一緒にやってみたい」と意気投合し、後日卒業生とうちの生徒会長と私の3人で作戦会議をしました。その時、生徒会長の彼から「先生たち大人は全然分かってない。僕たちは文化祭をいろいろな人に見てもらいたいんだ」との訴えがあったんです。コロナ禍で文化祭も外の人には見てもらえない時期だったので、生徒たちはそれが不満だったのでしょう。だったら地域の高校生を集めて自主的に文化祭をやろうという話になりました。
彼らのつてで各学校の高校生に声を掛け、賛同してくれる生徒数人と話し合いをしました。その中で、被服を学んでいる生徒から「ファッションショーをしたい」という話がありました。最初のイベントは野外広場が会場だったということもあり、その生徒が制作した作品をどうやって持ってくればいいか悩んでいたので、私は「まずは自校の先生にアドバイスをもらってみたら、どうかな?」と言いました。すると後日、その学校の先生から電話があり「公文はあるのか」とか「教育委員会は通しているのか」とか「それはどこ主催のイベントなのか」とか、いろいろと聞かれました。
初めての企画ですので、先生方も不安でしょうし、そのような連絡がくることも予想はしていましたので、私は「ですよね~。ちょっと難しいかもしれないですよね~。生徒たちがやってみたいと言うことなので私は自分ができることを手伝っています。もし、先生方が無理そうだと思うのであれば気にせず断ってあげてください。それも生徒たちには勉強だと思うので」と伝えました。誰かが企画した既存のイベントを指示に従って動かすだけではなく、試行錯誤しながらイベントを作り上げるプロセスも彼らにとって学びの一貫になるのではないかと考えていたからです。
1回目はそんな形で、生徒の自主的な企画として行われました。地元の野外広場で、地域の飲食店のテークアウトができる小さなマルシェを出店し、ステージでは高校生がバンドやダンスを披露しました。2回目となった今年度は、中学生も参加してくれました。生徒たちの楽しむ力や地域づくりの仲間の協力によって、イベントを開催できていますが、荒削りな面が多く、課題もあります。その課題に実行委員の生徒たちが自ら気付き、次回の改善策を考えて取り組む姿が見られました。また、地域の面白い大人と頑張る生徒がつながり、お互いが刺激を受け、新たなご縁が広がっている様子が、このイベントの醍醐味(だいごみ)なのだとも感じています。
昨年11月5日には、空き家・空き店舗を改修して地域づくりにつなげる「リノベーションまちづくり@出水」の、ユニットCの「部活街」プロジェクトの活動で、公園を活用した実験的なイベントを開催しました。
昨年1月に出水市のリノスク(リノベーションスクール)に参加し、私の担当した対象物件が空き家や空き店舗ではなく市内の公園だったのです。その時に生まれたのが「部活街」プロジェクトです。公園活用のユニットメンバーは私と大学生と主婦でした。公園をどうリノベーションするかを話し合う中で、「それぞれの好きなことができる場ができたらいいよね」「それって部活動なんじゃない」という話が出て、「商店街」に面した公園の立地を生かして「部活街」というプロジェクトを企画しました。老若男女関係なく、好きなことを共有する仲間がいて、職場や家庭以外の居場所が地域にあるってなんかすてきですよね。
リノスクを終えてから、ユニットメンバーだけでなく、町づくりの仲間たちと一緒に本当に緩い感じで、月に1回程度「○○部(仮)」と称し、メンバーそれぞれの得意や好きを共有してきました。今回はその部活動のお披露目を兼ね、公園にキッチンカーが2台来て、文化祭のように料理研究部、音楽部、キャンプ部、鳥部、木工部、読書部、イラスト部、美・健康部などがやりたいことをしました。その上で、イベントに参加した人にアンケートに協力してもらい、今後の公園活用を探るという実験的なイベントでした。その日は天気にも恵まれ、公園の中で子どもから大人まで、一人一人がそれぞれのブースで楽しんでいる様子に「幸せ」や「豊かさ」を感じた温かいひとときとなりました。
今後は、そこにも高校生が参画できたらいいなと思っています。生徒たちだって、家庭と学校以外に第三の居場所があってもいいじゃないですか。あと、高校を辞めて居場所がない子たちがほっとできる居場所にもなるといいなとも思っています。全日制の高校を辞めた後に通信制の学校へ転学し、家族以外の大人と話をしていないような子も地域には少なからずいます。そうした子たちも、第三の居場所で何か面白い大人と関わり、つながることができる場になるといいですよね。
私自身も、学校でうまくいかなくて「どうしよう」と思ったときに、まちづくりや地域の仲間に相談すると「じゃあ、私が協力するよ」とか「こうしたらいいんじゃない」とか言ってもらえたりします。知恵をいただけたり、私を他の誰かとつないだりしてくださる方もいるので、そういう面でも「第三の居場所」の大切さを感じているところです。
――学校の先生も、学校以外に居場所があった方がいいのかもしれませんね。
絶対にいいと思います。「職員室の心理的安全性」というのがよく言われますが、実際にそうした雰囲気を醸成するのはなかなか難しい側面があります。もし、本気でこれに取り組むなら、学校の本質的なところから考えていく必要がありますが、日々の忙しさにかまけてそこに目が行きません。そうして心理的負担が大きくなり、一人で悩んで辞めてしまう教員もいます。
そんな中、生徒や保護者、教職員、行政関係者などではない、全く異なる人たちとつながれる場があったら、安心して自分を解放することができます。あるいは、教員とは異なる道へ進んだりする際のきっかけやヒントをもらえたりする可能性もあります。教員の中には、教職のスキル以外にもいろいろな特技を持っている人がいますし、それが勤務する学校の中では生かせないこともあります。
お菓子づくりが得意な先生や革細工が得意な先生、占いができる先生が集まって、地域の人と「マルシェをやろう」なども面白そうです。教員としてではなく、自分の好きなことで地域の仲間とつながれたら、新たな視点や価値観と出合い、刺激を受け、それが自分自身の成長につながったら、もっと先生の仕事も面白く感じられるかもしれません。つながりができることで地域の人とフラットに、互いにお願いしたり、応援したりし合える関係ができることが、私にとっての地域と学校の連携の理想形もしれません。
――そうして先生が地域とつながれば、日々の教育活動にも役立つことがありそうですね。
私は弓道部の顧問しているのですが、着任するまで弓道はやったことがありませんでした。今、生徒たちが活躍できているのは、後輩のためにとボランティアで指導してくださっている地域の外部指導者の方々のお陰です。そう考えても、地域の方々にきちんと謝金を支払った上で、教員だけでなく地域で部活動を見られる体制をつくっていくことができれば、部活動に負担感を感じている教員も少しは楽になるんじゃないかという思いもあります。
教員も全部は頑張れません。部活動の負担が大きいがために、自分のやりたいことができない教員もいると思います。一方で、地域の中には自分の得意分野で若者を応援したいと言ってくださる方もいます。今後は私自身が、そういう方たちと学校とをつなぐ架け橋になれればいいなと思っています。
ある先生が「教員は土地の人じゃなくて風の人だから」と話していました。4~7年で、別の学校へ異動していくからです。でも、だからこそできることがあるとも思います。もし、私が出身地の奄美大島で同じことができるかというと、周囲の目などが気になってできなかったりするんじゃないかと思うからです。
【プロフィール】
山下優香(やました・ゆうか) 鹿児島県奄美大島出身。高校生までを鹿児島で過ごし、長崎大学へ。大学卒業後、期限付き教諭として奄美高校、大島北高校で勤務。教員採用試験に合格後、鹿児島県高校教諭として鹿屋農業高校での4年間の勤務を経て、現在は出水工業高校に勤務。どうやったら生徒の夢がかなうか、生徒と一緒に考えることが好きという自身の性質に気付き、2019年にキャリアコンサルタントの資格を取得。一方で、学校を学びの場として提供する「高尾野わくわくアカデミー」のメンバーとしても活動中。プライベートでの学びを生徒たちに還元するために、20年度「本気の地域づくりプロデューサー養成講座」や「第2回リノベーションスクール@出水(2022)」にも参加。