ノルウェーのオスロ中央駅の前には、ひときわ目立つ建物群がある。フィヨルドに沿って並ぶオペラハウスと公共図書館、そしてその後ろにあるムンク美術館だ。公共図書館は細長い窓ガラスで覆われており、上階部分が大きく突き出した形のモダンな建物だ。2021年には世界のベスト・パブリックライブラリー賞を受賞している。テレビゲームもできるという図書館に、子供たちと行ってみた。
図書館の中は、広いながらもアットホームな雰囲気がある、不思議な空間だった。
印象的だったのは、子供や若者が大勢いたことだ。日中は、教員に付き添われた小中学生が何組もやってきた。平日の夕方に訪れたときには、高校生・大学生ぐらいの若者でテーブルが埋まっていた。一人で勉強する人や、グループ課題をする様子のテーブルもあった。音楽を聴きながら、ソファに座ってただくつろいでいる若者もいた。
子供や親子連れのためのスペースには、階段状になったベンチや、洞穴のようなプレールームもあった。子供たちは、床に並べられた大きなチェスや、駒のように回る椅子に興味津々だった。
この連載で以前、デンマークの公共図書館のメーカースペース のことを取り上げたが(参照記事「デンマークの図書館のメーカースペース」)、オスロの図書館にも3Dプリンターやレーザーカッター、大判印刷機やミシン、画像編集ができる高性能のパソコンなどが並んでいる場所があった。また、DJができるブースや、ポッドキャストが収録できる部屋、ミニシアターもあるという。営利目的でなければ、ほぼ全て無料か材料費のみで借りることができる。
さらには、テレビゲームができる部屋もあった。じゅうたん敷きの部屋に3つのスクリーンが用意されており、それぞれNintendo Switch、Xbox、PlayStation 5とつながっていて、仲間とサッカーやダンスゲームなどが楽しめる。ゲーム機は施錠された棚の中にあり、ソフトを替えたい場合はスタッフの人を呼びに行く。自宅にゲーム機がない人にとってはもちろん、持っている人であっても、大画面で仲間と一緒にやるゲームは一味違う体験になるだろう。
書棚にはたくさんの本が並んでいるが、この図書館は本を借りたり読んだりする場所であるだけでなく、さまざまな無料の道具が置いてあり、みんなで集まって何かを作ったり共有したりできる、創造のための空間という感じだ。
開催されているイベントも、読み聞かせや講演会だけではない。プロのラッパーによる音楽セッションや、子供のための自転車イベント、映画の上映、クローゼットに眠っている洋服をアレンジするワークショップなど、知識・創造・共有という公共図書館の強みを生かした想像力あふれるラインアップだ。
毎週金曜日の夜には、若者5人が主催する「フライデーチル」が開催されており、そこでは14~20歳の若者がチェスや卓球、ボードゲームやマリオカートを楽しめたり、工作や音楽制作に取り組めたりする。スニーカーのクリーニング機械が置いてあったり、時には映画が流されたりもするらしい。
オスロの公共図書館は正式名称をダイヒマン図書館といい、市内に22の図書館・図書室を持つ。今回訪れたビョルヴィーカ館がメイン図書館だ。開館は1785年で、事業家のカール・ダイヒマンが、収集した6000冊の書物を市に寄贈したのが始まりだ。彼は啓蒙時代に生きた人で、教育と知識が人々に最善をもたらすと信じていた。
それから約230年後、新装開館したビョルヴィーカ館は21年にパブリックライブラリー・オブザイヤー賞を受賞した。審査委員長は、環境意識と建築的才能の組み合わせや秀逸なデジタルソリューションを評価するとともに、「この図書館は、図書館が街や地域の人々を結び付ける場として機能しうることを示している」とコメントした。ある記事では「無料の文化的ハブ」「全ての人々の集える場」、そして「全ての市民に向けた贈り物」と絶賛された。
図書館に集まっている人々を見ると、確かにそれは実現しているようだ。そして、子供や若者を引き付ける未来志向の図書館だとも言える。自分の街にも、ぜひあってほしい公共空間だ。