【72時間を生き抜く力】 コーチを育てる秘訣

【72時間を生き抜く力】 コーチを育てる秘訣
【協賛企画】
広 告

 「72時間サバイバル教育協会」の代表理事を務め、さまざまなプログラムを展開するとともに、指導するコーチの育成も行っている片山誠さん。子どもたちが生き抜く力を養う上で大切なのは、「教えないこと」「主体性を引き出すこと」だと話す。インタビューの第2回では、子どもを主体的に学ばせる働き掛けの秘訣(ひけつ)を聞いた。(全3回)

「知ってる」と「できる」の隔たり

――「72時間サバイバルマスター養成プログラム」の8種目のうち、「ファイヤー」「ナイフ」についてお聞きしましたが、想像以上に検定の難易度が高い印象です。合格率が高い種目はありますか。

 「ウォーター」は比較的高いですね。災害時に水を手に入れるのが目標で、導入では「どこで手に入れていますか?」と尋ねます。ごくまれに「湧き水をくみに行っている」という子が地方にいたりしますが、もちろんほぼ全員が「水道水」と答えます。家庭によってはミネラルウォーターのタンクを買っていて、「水道水は飲めない」と話す子もいます。

 そういう日常を聞いた後、「水がなくなったらどうするか」と聞きます。すると結構な数の子どもが「ろ過する」と言います。「ろ過したことはないけど、方法は知ってる」と。

ろ過装置を作る子どもたち(片山さん提供)
ろ過装置を作る子どもたち(片山さん提供)

 でも、「知ってる」と「できる」は、全然違うじゃないですか。それなのに「知ってる。だからできる」と考える子が多いのです。そこで、「ウォーター」のプログラムでは実際にペットボトルを使い、手づくりろ過装置を子どもたちに作らせます。

 YouTubeやテレビでろ過器を作って実際に透明になるのを見た子は、「簡単にできる」と思うのですが、実際には全然できません。そうして「見たことや聞いたことがあること」と現実とは違うということを知ります。

 そうして子どもたちは、安易に「何かあったらろ過装置を作ればいい」と考えていると、本当に災害が起こったときに大変なことになるという事実を理解します。そして、こんな手間の掛かることに頼らず、普段から備蓄用の水を用意するなど、ちゃんとした対策をしておこうと考えるようになります。

――でも、一度ろ過装置を覚えてしまうと「これを作ればいい」と思う子がいるかもしれません。

 実は、ろ過装置で飲み水はできていないんです。仮に、手づくりのろ過装置で透明な水ができたとして、その水を「飲めますか?」と聞くと、半数以上が「飲みたくない」と言います。実際、煮沸したら飲めるかもしれませんが、元が川の水だからお腹を壊す可能性もあります。飲めるかどうかは人によって違うんです。

「普段の備えが重要だ」と強調する片山誠さん
「普段の備えが重要だ」と強調する片山誠さん

――確かに、私も自分の子には飲ませられないかもしれません。

 だからこそ、「誰にでも飲める水をどう確保するのか、あらかじめ考えておこう」と伝えます。災害が起こったときに慌てて用意するのではなくて、普段の備えが重要だということを実感してもらうプログラムです。

 それは「フード」の種目も同じで、非常食の試食もやるのですが、「こんなもの食えない」と言う子もいれば、「おいしい」と言いながら食べる子もいる。でも、それを体験しないまま災害が発生し、「こんなもの食えない」となったら大変でしょうという話なのです。

子どもがミスリードする場面では

――「シェルター」も、いざ自分がやるとなると難しいでしょうね。

 そうですね。最終的にはブルーシートで日よけと雨よけになるものを一人で作れるようになるというのが、この種目の検定項目です。2つのロープワークを覚えて作ります。

 導入では市販のテントやタープを立てる実習もやりますが、そもそも一人でテントを立てられる子はほとんどいません。中には「テントを立てたことがある」と言う子もいますが、たいていは家族でキャンプに行って、お父さんの指示で立てている程度です。だから、本当にできるわけではありません。そういう子がいるとミスリードしてしまい、かえって作業が滞ったりします。

――そういうときは、指導者が「それは違うよ」と声掛けするのでしょうか。

 そこまではっきりとは言いませんが、「ちょっとみんなで考えてみよう」と声を掛けたり、ミスリードしている子が言っていることに対して他の子が「こうじゃないの」みたいなことを言ったら、「じゃあ、違うやり方も試してみたら」と伝えたりしています。

モヤモヤして終わるのがいい

――プログラムには、適切に役割分担したり情報をまとめたりする力を育む「チームビルド」という種目もあります。指導者の資質も重要になりますね。

 そうですね。今は全国に100人ぐらいのコーチがいます。「コーチ養成講座」を受けてコーチングなども学んだ上で、1泊2日の実地研修を経てコーチとして登録できるという形にしています。

 登録後は「自分でどんどん学んでください」と伝えています。登録したからといって、即戦力にはなりません。資格は出しますが、本当に活躍できるかは本人の努力次第です。

子ども自身に考えさせるようコーチに伝えていると話す
子ども自身に考えさせるようコーチに伝えていると話す

――コーチングを学んでも、指示を出してしまうコーチはいるのでしょうか。

 います。そもそも、ほとんどの大人がそうじゃないですか。子どもの手がちょっと止まっていると、すぐに口出しをしてしまいます。

 でも、子どもの手が止まっているからといって、思考が止まっているわけではありません。だから、「ちゃんと待ちましょう」という話をコーチにはします。養成講座でもそのためのプログラムをかなり長い時間をかけて行い、ロールプレーもします。

 実際にコーチとして活動するようになった人の中にも、つい教えてしまう人はいます。教えると子どもはできるようになって喜ぶし、教える側も気持ちいいじゃないですか。双方にとって良いように見えるんですが、実際は身に付いていない。本質が違うという話なんです。

 そんなときに私がよく伝えるのは、「子どもがスキルやマインドを身に付けるのに、自分で考えるのとコーチから指示されるのと、どちらが本当に役に立ちますか」ということです。手が止まったからといって即座に教えたら、「できた」となって終わってしまう。それは、本当に「身に付けた」ことになるのかと。

 だから、コーチには「モヤモヤして終わるぐらいでいい」「子どもたちをお腹いっぱいにする必要はない」と伝えています。むしろ、子どもを「もっとやりたかった」「もっと知りたかった」という気持ちにして帰ってもらうことの方が、主体的に学ぶことにつながっていきます。そういう働き掛けをしてもらうよう日々伝えています。

【プロフィール】

片山誠(かたやま・まこと) 1971年、大阪府生まれ。関西大学社会学部卒業。東日本大震災をきっかけに仲間と立ち上げた「72時間サバイバル教育協会」で2016年から代表理事となり、体験学習を通じた防災教育プログラムを全国で展開。著書に『もしときサバイバル術Jr.』『車バイバル!』、監修『めざせ!災害サバイバルマスター』など。ジャパンアウトドアリーダーズアワード2019優秀賞。

広 告
広 告