インクルーシブ教育を推奨する方々との出会いによって無謀とも言えるチャレンジをすることになりましたが、実は支援型幼稚園の就学相談で「支援学級」と判定を受けた後、夫婦で支援学級の見学に行っていました。
教室の外の廊下からの見学でしたが、衝撃だったのは支援学級と、その隣にあった普通学級との違い。「おイモのハンコでペッタンします」という支援学級の横で響く「あいうえお」の声。この壁1枚の隔たりで、こんなに大きな違いがあるのか。圧倒的な差異を感じてトボトボと帰った帰り道では、シトシト降っていた雨が、ずいぶんと私をしょんぼりさせました。
そこでふと目に飛び込んできたのは色鮮やかなアジサイ。「わぁ、キレイ」と立ち止まった時、これはゆっくり歩いていたおかげで見つけられた景色なのでは、と思いました。晴れていたら、自転車だったら、この花の存在には気が付かなかった。片やおイモのペッタン、片やあいうえお。スピードの違いがあってもいいじゃないか、と。お散歩と新幹線のどちらがいいかを比較する人なんて誰もいないのだから。
そう思っていた私たちだったのに、そのたった数カ月後に方向転換をするなんて、本当に思ってもみませんでした。
「ダウン症がありますが、普通学級へ行きたいです」
当時の校長先生へ、入学する半年前にラブレターのようにドキドキしながらお手紙を送ったら、「ならば」と事前に打ち合わせの時間を設けていただくことができました。行動して、お伝えしてよかった。
校長先生はこうおっしゃってくれました。
「今なら工事費などの予算が出せるので、あらかじめ想定できる困りごとを減らしていきませんか。例えば蛇口をひねることはできますか?」
そう聞かれて初めて「苦手です」と答えることができました。「それならば蛇口を一部、レバーに変更する工事をします」と校長先生。ウチの子のためだけにそんな、と恐縮する私たち夫婦に「握力が弱い子どもたちにとっても助かることです」と笑顔で言ってくださった優しさは、ありがたかった。そんな校長先生から申し出てくださった「合理的配慮」はたくさんあった。「身長はどれくらいですか。小さいのですね。では学校で一番小さい机と椅子を用意しておきます」
そもそも、障がいのある子が普通学級に通えることすら想定していなかったのに、普通学級に行きたいと言い出したら、入学する前から「おいで」と両手を広げていただけたわけです。「できない」ことの方が多いわが子なのに丸ごと受け入れていただけたことが、ただただうれしくて、思わず涙が出ました。