以前、大学で「国語科教育法」を指導していた折、小学校で使用中の国語の教科書を購入させ、教材にしていたことがある。年度始め、その教科書を配布すると学生から一瞬歓声が起こり、しばし、小学校時代の思い出に花を咲かせるのが常であった。とりわけ、自分の小学生時代にもあった教材に出会うと、当時の授業の様子などの懐かしい話が次々と出され、時間のたつのも忘れる程であった。この懐かしさは学生に限らずわれわれ大人にも通じる思いではなかろうか。過日、4月から使用される、ある国語の教科書を見る機会があった。裏表紙に、「保護者の皆様へ」として、「これからの社会を生きる子どもたちが、言葉に出会う喜びや、人とつながる楽しさを実感しながら、確かな『言葉の力』を身につけることを願って編集した」とあり、家庭でも「この教科書を子どもたちと語り合うきっかけ」にしてほしいと記されていた。このようなメッセージが教科書編集者から発信されるのはかつてなかったと思う。教科書がこれまでの教師と児童をつなぐものから、保護者も含めた三者をつなぐものという、新たな教科書の在り方が提起されたようで、うれしい思いで読んだ。子供たちが、「言葉」について教科書を仲立ちに教師、保護者と共に語り合い心を通わせるとは何と素晴らしいことか。それは、子供たちの言語生活が学校外に大きく広がることでもある。子供たちの「言葉の学び」に、保護者が教科書をもとに一層関心を持つ時代が早晩来ることを大いに期待したい。