学校現場で日常的にICTが使われるようになり、教育のDX化が進んでいる。中でも、ICT活用を全面に打ち出した「個別最適な学び」は、一律で画一的な授業を脱却できる手法として広く取り入れられつつある。しかし、個別最適化は本当に一人一人に適した学びの実現、個性が生かせる教育なのか。本書が警鐘を鳴らす。
第一に、個別最適は「何ができる」「何ができない」のデータの集積を通じて、意図しない能力主義的な手法に陥る危険性があることを指摘する。個人の能力を強化、固定化させていくと、結果的に能力差に序列を付けることにつながる。さらに、AIによって最適化された個別最適な学びは、学習指導要領に規定された資質・能力の枠組みの中でAIが学習を調整するに過ぎず、主体的で対話的な学びという教育目標が達成できるのものではないことを認識しておかなければいけない。
教育とは学習指導要領に沿った資質・能力を身に付けるだけでなく、主体性や協働的な在り方を育み、人格の全面的発達を目指すものである。個々の学習要求にしっかりと応えていくためには、教員による自律的、専門的な判断のもと、必要に応じてICTを活用した教育を実践する必要があると伝える。学校におけるICTの活用は、子供の学びに大きな可能性や利点があるのも確かである。本書が、子供の成長に本当に必要な教育DXとは何かを考えるきっかけになればと思う。