【海外の教育ニュースを読む】 フランス下院がいじめ処罰法を可決

 フランス国民議会の下院は昨年12月1日、学校のいじめを“犯罪”として処罰する法律を可決した。同法は2月に上院で審議され、採決される予定だが、可決される可能性が極めて高い。従来、フランスでは通常の刑法でいじめを処罰してきたが、同法は犯罪として特定するもので、おそらく世界で最初の「いじめ処罰法」になるだろう。

 同法によると、いじめで逮捕された者は最長で3年の懲役刑に服し、最大4万5000ユーロ(日本円で約590万円)の罰金が科されることになる。刑期や罰金は、いじめの程度や加害者の年齢などが配慮されて決定される。また法案には、いじめを受けた生徒や学生が自殺するか、自殺未遂の場合、刑期は10年に延長されるという条文も盛り込まれている。ただ、同法は処罰規定に留まらず、いじめ防止措置やいじめ防止教育のための予算を増やすことも規定している。

 学校でのいじめは世界共通の問題だ。フランスも例外ではなく、調査によれば10人に1人の割合で、学校でいじめが起こっている。フランスでは2012年頃からいじめ防止に関する積極的なキャンペーンが行われてきたが、状況は悪化する一方であった。フランスの教育専門家は、フランスはいじめ問題に対する取り組みが他国より遅れたと指摘している。最近では、表面化しないSNSを使ったいじめが広がっており、実態はさらに悪化しているとみられる。

 ところで同法が可決された背景には、2つのいじめ問題がある。3月にパリのセーヌ川で、14歳の少女の死体が発見された。少女はスマートフォンから下着姿の写真を盗まれ、拡散されたことで、いじめに遭っていた。いじめは過激化し、2人の10代の少年が少女殺害容疑で逮捕された。

 さらに10月にフランス東部のアルザス地方の都市で、14歳の少女が自殺する事件が起きた。少女は自分が同性愛者であると告白した後、クラスで激しいいじめに遭い、仲間外れにされていた。

 他にもフランスでは、2010年生まれの生徒に対する集団的ないじめが起こっている。「#anti2010」というハッシュタグで、昨年9月に中学校に入学した生徒に対して集中的に「汚い2010」と罵詈(ばり)雑言を浴びせかけるのだ。これに対してジャン=ミシェル・ブランケール教育相は学校長に、「ハラスメント、脅威、攻撃に対して警戒を強化」するように指示している。また同教育相は「cyberbullying(SNSを使ったいじめ)に対する警戒」も呼び掛け、「子供がいじめに遭った家族はホットラインに報告し、SNSを使っていじめを行った者は処罰されるべきである」と語っている。

 こうした現状を踏まえて、与党連合と右派政党はいじめ処罰法を議会に提案した。下院での法案可決を受け、ブランケール教育相は同法を支持する意向を表明し、「私たちの子供の生命が脅かされるのを、受け入れることはできない。同法は、共和国の価値観を強化する方法でもある」と歓迎の声明を発表している。

 また、法案を共同提出した民主運動党の議員の一人は「同法は教育的価値を持っている。その狙いはいじめ問題に社会全体で取り組むことにある。同法はいじめが及ぼす極めて深刻な影響に対して、社会に自覚を促すショック・ウエーブである」と、その狙いを強調している。

 さらに別の議員は「社会はいじめの深刻さに目覚めるべきだ」と、同法を支持した理由を説明している。民主運動党の別の議員は「同法は子供を刑務所に送るのが目的ではない。加害者の子供の年齢と判断力を考慮に入れた、未成年のための司法制度である」と語っている。

 中道派政党と右派政党が積極的に同法を支持しているのに対して、リベラル派や左派政党は批判的な立場を取っている。「不服従のフランス」のサビナ・ルビン議員は「同法は幻想的で、煽情的な過剰反応である」と否定的なコメントを発表。さらに「未成年者を犯罪者にし、彼らに対する抑圧を強める法律を支持できない」とも語った。

 また反対派議員は、いじめを処罰する既存の法律が存在しているのに、新たな法律がいじめを防止するのに本当に効果があるのか疑問を呈している。別のある議員は「同法がいじめを撲滅するという校長の責任を弱める結果になるのではないか」と、現場での処罰が全面に出て、教育的努力が希薄になることを懸念している。

 政治的立場、教育的立場の違いによって、同法に対する評価は大きく変わってくるだろう。あえて筆者の意見を言えば、「いじめ(bullying)」という言葉を使うことで、問題の本質が見えなくなっている部分があるのではないだろうか。社会で許されないことが、学校ではいじめという曖昧な概念によって希薄化されている。子供であろうが、大人であろうが、他者に危害を加えるのは犯罪である。

(中岡望=なかおか・のぞむ ジャーナリスト)

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