税と社会保障に関する学習 未来に向けた賢明な選択のために

教育新聞論説委員 工藤 文三

わが国の財政の状況

10月に公表された「日本の財政関係資料」(財務省)の第1部では、「Ⅰ. 我が国財政の現状」「Ⅱ. 財政健全化の必要性と取組」「Ⅲ. 各分野の課題」が順次整理されて示されている。「Ⅰ.」では、2019年度の一般会計予算が示されるとともに、普通国債の残高、国債残高の増加要因と国際比較、財政健全化に関する資料などが記載されている。

一般会計の歳出・歳入の推移のグラフを見ると、1989年までは一般会計の税収は伸び続け、それに伴って歳出も増大してきたことが分かる。しかし、バブル崩壊以降税収は年度によって上下はあるものの、09年度まで下降線をたどった。

一方、税収が下降しているにもかかわらず、歳出は上昇し続け、歳入と歳出の開きは年度によって増減はあるものの拡大してきた。この差額を補ってきたのが国債である。建設国債と特例国債を合わせた発行額は、税収が落ち込んだ09年度は、税収額を上回る規模となった。

国債に依存した国の財政が続いた結果、今年度末には普通国債の残高が897兆円に上る見込みとされている。また、日本の債務残高の対GDP比は235%で、全世界における順位は188位となっている。

国債残高の増加要因として、歳出面では高齢化の進行に伴う社会保障関係費の増加や地方交付税交付金等の増加を、歳入面では過去の景気の悪化や減税による税収の落ち込みを挙げている。

民主主義と選択

深刻な財政赤字は、現役世代が将来世代に債務を先送りしているという点で地球環境問題と同様の性格を持つ。「持続可能」という言葉は既に1980年代から地球環境問題に用いられるようになったが、この言葉を真に実現することは容易ではない。財政問題も地球環境問題も共に、社会の仕組みや、われわれの生活の見直しを迫るからである。

財政赤字を少しでも減らし、健全な姿に近づけるためには、家計と同様、原理的には税収を増やすか、歳出を削減するしか方法はない。家計の場合は、家族全員で現状を把握し、将来を見通しながら節約したり仕事を増やしたりする意思決定が可能である。

国の場合は、国民の理解を基礎に、望ましい政策を選択していく必要がある。ただ、選挙になると、痛みを伴う改革や政策は必ずしも支持されないことが多い。民主主義は有権者が社会の在り方を選択する仕組みであるが、未来世代の福祉よりも現在の利益を優先した選択になりがちといえる。

賢明な選択のために

民主主義の仕組みを通して、未来に向けた賢明な選択をするには、学校教育で税や社会保障などについての基礎的な理解を深めることが重要と考える。これまでも社会科では、租税や少子高齢化に伴う社会保障の課題について取り扱ってきた。改訂された高等学校学習指導要領においても、公民科では「財政及び租税の役割」「少子高齢社会における社会保障の充実・安定化」などの事項が設けられている。

しかしながら、ともすれば税の種類や社会保障の制度に関する学習、財政の現状を知る学習にとどまりがちであったのではないか。

今後はこれまでの実践も踏まえながら、財政や社会保障の課題について多角的に把握し、将来に向けてどのような選択が可能なのか、また、それぞれの選択肢の持つ課題はどこにあるのか、といった点について学習できるようにすることが重要だ。

このような学習を可能にするためには、身近でありながら専門性の高い税や社会保障などに関する教材を開発し、生徒が学習を深め、議論したり提言したりできるような状況をつくり出すことが必要である。

あなたへのお薦め

 
特集