小中学校1350校で「教師不足」 文科省が初の実態調査

小中学校1350校で「教師不足」 文科省が初の実態調査
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 今年度に「教師不足」が生じている公立の小学校が794校、中学校が556校に上っていることが1月31日、文科省が行った初めての実態調査で明らかになった。公立小中学校のほぼ20校に1校で「教師不足」が発生している計算となる。雇用形態別で見ると、臨時的任用教員が小学校の学級担任となる比率は11.49%。特別支援学級の学級担任は臨時的任用教員の比率が23.69%に跳ね上がり、ほぼ4分の1を占める。そうした臨時的任用教員さえ確保できず、小学校の学級担任に教師不足が起きている小学校は367校(うち特別支援学級が72校)。こうした学校では主幹教諭らが学級担任を代替しているケースが多い。教師不足が生じた主な要因は、産休・育休取得者や病休者の増加や、特別支援学級へのニーズの高まりが、各教育委員会の見込みを上回ったことだった。

「教師不足」の人数は2063人 自治体間のばらつきも

表1=「教師不足」の状況(人数) ※5月1日時点
表1=「教師不足」の状況(人数) ※5月1日時点

 調査結果によると、公立学校における「教師不足」の人数は5月1日時点で▽小学校 979人(0.26%)▽中学校 722人(0.33%)▽高校 159人(0.10%)▽特別支援学校 205人(0.26%)。合計は2063人だった=表1参照。割合は高校が最も低かった。今年度始業日時点に比べると、小学校、中学校、特別支援学校でそれぞれ改善しており、自治体が人材確保に努力している様子がうかがえる。

表2=「教師不足」の状況(学校数) ※5月1日時点
表2=「教師不足」の状況(学校数) ※5月1日時点

 また、公立学校における「教師不足」を学校数で見ると、5月1日時点で▽小学校 794校(4.2%)▽中学校 556校(6.0%)▽高校 121人(3.5%)▽特別支援学校 120校(11.0%)=表2参照。小学校では23.8校に1校、中学校では16.7校に1校、特別支援学校では9.1校に1校の割合で、それぞれ教師不足が発生している計算となる。

 こうした教師不足の状況は、自治体間でのばらつきが大きいことも分かった。教師不足が生じていない自治体は、小学校では、山形県、群馬県、東京都、新潟県、和歌山県、山口県、さいたま市、千葉市、名古屋市、大阪市、福岡市の11自治体。中学校では、岩手県、秋田県、山形県、東京都、新潟県、山梨県、和歌山県、高知県、千葉市、静岡市、名古屋市、大阪市、神戸市、北九州市の14自治体だった。

 これに対し、小学校で教師不足の比率が最も高かったのは島根県の1.46%。ただ、島根県は義務標準法上の教職員定数に対する充足率は103.3%と定数をかなり上回っており、自治体が独自に教員配当数を高めようとしたが、そのうち一部の教員を確保できなかったことが分かる。中学校の教員不足の比率では、熊本県1.77%、長崎県1.25%、福岡県1.08%、茨城県1.00%と、4自治体が1%を超えている。このうち、長崎県と熊本県は義務標準法上の教職員定数の充足率も100%に満たない。

 首都圏、中京圏、関西圏では、県庁所在地などのある自治体は教員不足がゼロであっても、県や府としては教員不足が生じている自治体が目立つ。例えば、さいたま市、千葉市、名古屋市、大阪市はいずれも小学校の教員不足は生じていないが、県や府のレベルで見ると、小学校の教員不足の比率が埼玉県0.43%、千葉県0.64%、愛知県0.35%、大阪府0.44%だった。同じ府県の中でも、地域によっては教員確保が難しい状況が浮き彫りになっている。

特別支援学級の担任 4人に1人が臨時的任用教員

表3=学校に配置されている教員の雇用形態別内訳  ※5月1日時点
表3=学校に配置されている教員の雇用形態別内訳  ※5月1日時点

 今回の調査結果では、学校に配置されている教員を雇用形態別でも明示した=表3参照。それによると、正規教員の割合は、定年後の再任用教員を含めて、▽小学校 87.38%▽中学校 87.45%▽高校 89.59%▽特別支援学校 81.43%。これに対し、臨時的任用教員は▽小学校 11.06%▽中学校 10.9%▽高校 6.95%▽特別支援学校 16.92%。臨時的任用教員の割合は、特別支援学校が小中高よりも高い。正規教員と臨時的任用教員の比率について、文科省では「正規教員が全体の9割弱を占めるという状態は、ここ数年、大きな変化はない。臨時的任用教員が相対的に増えているわけではない」(初等中等教育局財務課)と説明している。

表4=小・中学校の学級担任の雇用形態別内訳 ※5月1日時点
表4=小・中学校の学級担任の雇用形態別内訳 ※5月1日時点

 この雇用形態別による教員の配置数を小中学校の学級担任で見てみると、特別支援学級では臨時的任用教員が学級担任となる比率が通常学校の2倍以上も高いことが注目される=表4参照。小学校の学級担任は、通常学級では正規教員が88.40%、臨時的任用教員が11.49%。それに対し、特別支援学級では、正規教員は76.17%で、臨時的任用教員は23.69%にもなっている。中学校の学級担任ではこうした傾向がさらに顕著で、通常学級では臨時的任用教員は9.27%だが、特別支援学級では23.95%を占める。

 特別支援学級の担任は、小学校でも中学校でも、ほぼ4人に1人が臨時的任用教員となっている。こうした実態からは、児童生徒のニーズに応じて特別支援学級を設置しようとするとき、正規教員だけでは教員を確保できず、臨時的任用教員で対応している学校現場の実情が浮かぶ。特別支援学級への対応が、全国で教員不足が起きている主要な要因となっていることが分かる。

表5=小学校の学級担任の不足状況 ※5月1日時点
表5=小学校の学級担任の不足状況 ※5月1日時点

 小学校の学級担任については、臨時的任用教員で対応してもなお、教員不足を解消できないケースもある。今回の調査では、そうした「学級担任不足」の実態も調べた=表5参照。それによると、小学校で学級担任不足が生じている人数は474人。学校数は367校で、全体の学校数1万8991校に対して1.9%に当たる。ほぼ50校に1校となる計算だ。

表6=小学校の学級担任の代替状況 ※5月1日時点
表6=小学校の学級担任の代替状況 ※5月1日時点

 こうした「学級担任不足」が生じたとき、学校現場では、授業を止めることはできないので、本来学級担任ではない役割の教師が学級担任を代替することになる。学級担任不足となった474人の代替役を調べたところ、主幹教諭・指導教諭・教務主任が205件と最も多く、少人数指導や教科専門的な指導など指導体制の充実のために配置を予定していた教員が143件と続いた。校長・副校長・教頭といった学校管理職が代替するケースも53件あった=表6参照。このような学級担任不足への対応について、文科省では「学級担任の代替は確保できているので、授業は通常通り行われており、児童生徒への影響は生じていない。ただ、学級担任ではないはずの教師が、本来果たすべき役割を果たせていない、という問題がある」(総合教育政策局教育人材政策課)としている。

産育休、特別支援学級、病休者が「教師不足」の3大要因

 文科省では、今回の調査に合わせて、「教師不足」の発生要因について、各教育委員会の認識をアンケート調査した。その結果によると、発生要因として「産休・育休取得者数が見込みより増加」が、「よくあてはまる」24教委、「どちらかといえばあてはまる」29教委でトップとなった。次いで、「特別支援学級数が見込みより増加」が同じく17教委と30教委、「病休者数が見込みより増加」が同じく16教委と33教委。「採用辞退者数の増加により、必要な臨時的任用教員等が見込みより増加」が同じく5教委と22教委、「児童生徒の転入等により学級数が見込みより増加」が同じく4教委と25教委、「再任用を希望する定年退職者数が見込みより減少」が同じく4教委と24教委で続いた。

 この調査結果を見ると、団塊世代の大量退職で若手教員の採用を増やしたため、産休や育休を取得する教員が増えたことや、特別支援学級に対するニーズの高まり、ストレスなどを背景とした病休者数の増加が、「教師不足」の3大発生要因となっていることがデータとして確認されたと言える。

 「教師不足」が生じた直接の理由として、これまで産休・育休取得者の代替要員などとなってきた臨時的任用教員のなり手不足が指摘されてきたが、この理由についてもアンケート調査が行われた。その結果によると、「講師登録名簿登載希望者数の減少」がよくあてはまる」38教委、「どちらかといえばあてはまる」23教委で、全体の9割を超えてトップとなった。「採用試験に合格し正規教員に採用された臨時的任用教員等の増加による講師名簿登録者の減少」が同じく32教委と29教委、「講師登録名簿登載者等の臨時的任用教員のなり手が他の学校に就職済み」が同じく16教委と31教委、「臨時的任用教員等のなり手が教職以外の職(民間企業等)に就職済み」が同じく11教委と28教委、「臨時的任用教員等のなり手が免許状の未更新または更新手続きの負担感等により採用不可」が同じく10教委と26教委だった。

 臨時的任用教員のなり手不足の発生要因としては、団塊世代の大量退職に伴う正規教員の新規採用が増えたことが最も大きく、次に私立学校や民間企業などに就職して公立学校の教員希望者が減っていること、講師名簿登録者や退職教員にとっては教員免許更新制が負担になっていることなどが、この調査結果から浮かび上がってくる。

 こうした「教師不足」に対する対応について、文科省では「各自治体が複数年を見越した計画的な教員採用を行っていくことが、なによりも大切。特別支援学級へのニーズなどはなかなか読み切れないが、5年先まで予測して採用計画を作成している自治体もある。小学校の教員については、団塊世代の大量退職に伴う新規採用者数の増加は、多くの自治体でピークを越えてきた。これからは新規採用数がだんだん減っていくので、その部分の『教師不足』は数年後にはある程度解消されるかもしれない。働き方改革を含めた教師の魅力向上策はいま中教審で検討しているので、その議論を踏まえて必要な政策に取り組みたい」(同課)と説明している。

 今回の調査は、学校に配置される教師の数に欠員が生じる「教員不足」の実態を把握するため、2021年4月の今年度始業日時点と、1カ月後の5月1日時点での状況について、文科省が都道府県や政令市など68教委に聞き取りを行ったもの。ここでの教師不足の定義は、国が政府予算で定める義務標準法上の教職員定数に対する配置状況ではない。自治体の多くは、少人数学級や専科指導などのために国が政府予算に盛り込んだ教職員定数を上回る教師の数(配当数)を学校に配置することとしており、この調査ではそうした各自治体が定めた教師の配当数に対して欠員が生じている状態を「教師不足」と定義している。

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