公立中学校における休日の運動部活動の地域移行に関して検討会議がまとめた提言が6月6日、同会議の友添秀則座長(日本学校体育研究連合会会長)から室伏広治スポーツ庁長官に提出された。これに沿って来年度からの3年間を改革集中期間として、休日の運動部活動の地域移行が全国で進められることになる。スポーツ庁では各地の進行状況を見ながら将来的に、平日の活動の地域移行についても検討していく方針。指導者の質と量の確保、保護者の金銭的負担増など地域移行した場合の課題が指摘される中、会見した室伏長官は「運動部活動は日本のスポーツにおいて重要な役割を果たしてきたが、少子化の進行に加え教員の働き方の面から見ても、今まさに改革が必要なタイミングだ」として改革の必要性を強調。「最初はどういうことかと思う自治体や地域の方々、学校関係者もいると思うが、地域移行することによって生徒がいろいろなスポーツ体験ができる機会になっていけば」と述べた。
提言によると、少子化の進行による部活動の継続的な実施への懸念と長時間化する教員の勤務実態などの観点から、運動部活動の中心を学校から地域へと移行させて、多くの生徒たちがスポーツとふれあうことのできる機会を確保しつつ、教員と学校の働き方改革を進めることが重要であると指摘。休日の活動を段階的に地域移行していくことを基本とした。
学校に代わる実施主体として地域の総合型スポーツクラブやスポーツ少年団、クラブチーム、大学などを想定し、教員が担っていた運動部の指導を外部人材に任せ、各種指導者資格の取得を促進させて質を担保し、部活動指導員の活用のほか都道府県単位でスポーツ団体と連携した人材バンクを設置して量の確保を提案。希望する教師には兼職兼業の許可を与え、学校外の団体での指導を認めることも可能とした。
使用する施設については、体育館など学校体育施設の活用を促進するために、地方自治体やスポーツ団体などによる協議会を設置して連絡・調整にあたるほか、学校施設の管理を指定管理者制度の利用などでスポーツ団体に委託することも方策として盛り込んだ。
これまで学校単位だった各種大会の参加資格についても、地域団体が参加できる大会には国が支援するような仕組みづくりを行うほか、勝利に固執するあまり生徒の健康や保護者の金銭負担が大きくならないように大会の開催回数の精選なども求めた。休日における教員の大会運営への参加についても見直すよう要請している。
地域のスポーツ団体に所属する場合に、新たに会費の発生が予想されることから、保護者に大きな負担とならないように、スポーツ団体に対して学校施設の低額での貸与や地方自治体、国からの支援、地元企業が有する施設の利用や用具の寄付などの支援も期待。経済的に困窮する家庭に対しては、地方自治体による費用の援助や地元企業による基金の設立、国による支援も考えられるとした。
スポーツ庁では今後、運動部活動の地域移行を受けてガイドラインを改訂するほか、地方自治体における推進計画の策定や実施の主導、公的な支援について検討していく。地域移行にあたって大きな問題とされる保護者の金銭的な負担増については周知徹底を図り、理解を求めていく方針。
スポーツ庁は地域移行に伴う支援費用を来年度予算の概算要求に盛り込む方針で、同庁地域スポーツ課では「受け皿になるスポーツ団体が自立して持続可能な運営ができるようにするには、どのような団体にどういう形でお金が出せるのか、指導者の確保のための適切な対価の支払い、資格の取得にどのような支援ができるのか、困窮家庭に対する支援についてもどう取り組んだらよいのかといった点などから検討していきたい」と話している。
室伏長官は会見の最後で、「全ての地域が一律で同じように移行が進んでいくとは考えにくい」との見解を示した上で、「社会的な背景や課題を考えて、それぞれの地域ごとの取り組み方を尊重しながら一体的に進めていくことが重要になる」と述べた。
どの地域においても、 受け皿となるスポーツ団体等の整備充実が必要だが、地域スポーツ団体と中学校等との連携が十分でないところが多い。
国は各地方公共団体における取組の参考となるよう、連携や支援の在り方について先進的に取り組んでいる事例をまとめ提供。
中学生を受け入れるスポーツ団体等について、必要な予算の確保やスポーツ振興くじ(toto)助成を含めた多様な財源の確保による国の支援も検討。地域の実情に応じた支援体制の整備。
専門性や資質を有する指導者の量を確保する必要がある。
教師等の中には専門的な知識や技量、指導経験があり、地域でのスポーツ指導を強く希望する者もいる。
指導者資格の取得や研修の実施の促進。 JSPO(日本スポーツ協会)は、競技団体等が主催する大会において、公認スポーツ指導者資格の取得を義務付け。
部活動指導員の活用や、教師等による兼職兼業、企業・クラブチームや大学からの指導者の派遣、地域のスポーツ団体等と連携した人材バンクの設置など。指導者の確保(適切な対価の支払い等) のための国の支援方策の検討。
希望する教師が円滑に兼職兼業の許可を得られるよう、国は許可の対象となり得る例を周知するとともに、教育委員会は兼職兼業の運用に係る考え方等を整理。
公共スポーツ施設やスポーツ団体・民間事業者等が有するスポーツ施設だけでは足りない地域も想定される。
スポーツ団体等が学校体育施設を利用する場合、施設管理を学校が行うと負担が増大するおそれがある。
学校体育施設の活用を促進するため、地方公共団体やスポーツ団体等が連絡・調整するための協議会を設立し、利用ルール等の策定や、利用の割り当ての調整を行う。
施設利用の促進・学校の負担軽減のため、放課後や休日の学校体育施設の管理を、指定管理者制度を活用するなどしてスポーツ団体等に委託。
大会の参加資格が学校単位に限定され、地域のスポーツ団体等の参加は認められていないものがある。
中体連と競技団体が主催する全国大会が併存。全国大会ではより上を目指そうとして練習の長時間化・過熱化による怪我や故障、行き過ぎた指導等を招いている。
休日の大会参加の引率に負担を感じている教師もいる。大会運営の多くを教師が担っている実態がある。
2023年度以降は、国は、地域のスポーツ団体等も参加できる大会に対して、引き続き支援。地方公共団体においても支援の在り方を見直し。
地域において、自分なりのペースでスポーツに親しみたい生徒や複数の運動種目を経験できる活動に参加している生徒等の成果発表の場としてふさわしい大会を整備。
生徒の心身の負担や保護者の金銭負担が過重にならないよう、国からスポーツ団体等に対し、全国大会の開催回数の精選を要請。スポーツボランティアの活用。
大会運営は主催者である団体等の職員により担われるべきであり、国から団体等に対し、大会運営体制について適切に見直すことを要請。
地域スポーツに支払う会費が保護者にとって大きな負担となると躊躇する恐れ。
経済的に困窮する家庭においては会費を支払うことが難しい。
学校施設の低額での貸与など地方公共団体や国からの支援、地元企業の施設の利用や用具の寄付等の支援。
例えば、地方公共団体における困窮する家庭へのスポーツに係る費用の補助や、 地元企業からの寄附等による基金の創設などの取組に関し、国による支援方策も検討。
地域移行後も安心して地域でスポーツ活動に参加できるよう、生徒や指導者が怪我等をしても十分な補償を受けられるようにする必要がある。
国は、JSPOや各競技団体を通じて、地域のスポーツ団体等に対して、指導者や会員の保険加入を強く促す。
スポーツ安全保険について、災害共済給付と同程度の補償となるよう、国からスポーツ安全協会に補償内容の充実を要請。
学校で運動部活動が運営され、教師が顧問となって指導を担うことが前提となっている関連諸制度について、地域でスポーツ活動に参加する生徒が増えていく状況にふさわしいものに、見直していく必要がある。
学習指導要領:部活動の課題や留意事項等について通知・学習指導要領総則解説編に明記。 次期改訂時 (前回は2017年に改訂)に、学校は、地域で行われるスポーツ団体等と連携・協働を深めることを規定することなどの見直しを検討。
高校入試:部活動の活動歴や大会成績のみではなく、部活動からうかがえる生徒の個性や意欲、能力について、調査書のみならず生徒による自己評価資料、 面接や小論文など入試全体を通じて多面的に評価。
教師の採用:部活動指導に係る意欲や能力等について、採用選考にあたり評価することや、人事配置において過度に評価していることがあれば、適切に見直し。
(スポーツ庁作成資料から抜粋)