平和教材から『はだしのゲン』外れる 「児童に説明難しく」、広島市

平和教材から『はだしのゲン』外れる 「児童に説明難しく」、広島市
現在使われている『ひろしま平和ノート』(広島市教委提供)
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 広島市教育委員会は2月16日までに、同市内の小学校で行っている「平和教育プログラム」についての教材を見直し、来年度から漫画『はだしのゲン』のシーンを採用しないことを決定した。2013年度のプログラム開始以来、約10年使用されたが、不採用の理由について、同市教委は「作品そのものに問題があるのではなく、教材としての課題があったため」と説明した。

 『はだしのゲン』は原爆被災者である中沢啓治さんによる漫画作品。戦中戦後の広島市を舞台に、主人公の中岡ゲンが激動の時代を必死に生き抜く姿が描かれている。中沢さん自身の被ばく体験を基にしており、漫画を原作とした実写映画やテレビドラマも制作された。

 広島市では13年度から、独自の「平和教育プログラム」を小中高一貫で実施。道徳や国語、社会などを関連付けた横断的な学習として位置付けている。その教材として『ひろしま平和ノート』を活用。小学1~3年は生命の尊さや人間愛、小学4~6年は被ばくから復興の過程、中学校は世界平和に関わる問題、高校では世界平和の実現に向けた展望と、学齢に応じたプログラムが設けられている。

 同市教委では19年度から、ひろしま平和ノート全体の見直しの検討を開始し、翌年から学校長や平和関連施設職員など有識者による検討会議を設置して議論を進めてきた。『はだしのゲン』を含めた見直し内容については、2月8日の教育委員会議で報告された。

 『はだしのゲン』は「せんそうがあったころの広島」をテーマにした、小学3年生の学習時に登場する。ゲンが家計を助けようと、学校に行かずに三味線を使って物語を語る「浪曲」を披露したり、近所の庭に忍び込み、池のコイを盗んだりするシーンを使用。戦争が激しくなったころの家族の絆を伝える狙いだったが、現場の教員から「盗むに至った背景や浪曲についての説明が必要で、家族愛に迫るまでに手間が掛かる」といった指摘があり、会議の委員も見直しに同意したという。

 合わせて、原爆の非人道性を伝える目的で使用されていた、ゲンの家族が火の手が上がる自宅の下敷きになる場面も来年度の教材には採用しない。

 同市教委指導第一課の高田尚志課長は『はだしのゲン』について「ほぼ全ての学校の図書室においてあり、ゲンで原爆の悲惨さや当時の暮らしに触れた子供はとても多い。広島の被ばくを伝える上で、資料の域に達している」と話し、作品そのものの問題による見直しではないことを強調した。また、高校の教材として取り上げていた中沢さんの被ばく体験やゲンを書くに至った思いなどについては、新しい教材で引き続き採用されるという。

 同市教委によると、『はだしのゲン』の代わりに当時の家族を伝える教材として、被ばくで両親と妹3人を亡くした綿岡智津子さんが、原爆投下前日に撮影した家族写真に込めた思いや綿岡さんの娘のインタビューを取り入れるという。高田課長は「家族により焦点を当てた教材になっているので、自分事として原爆を考えられるものになっている」と語る。

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