例年より早く桜の便りが届く中、全国各地の小学校では卒業式シーズンを迎えている。東京都千代田区立和泉小学校(村田悦子校長、児童357人)でも3月24日、卒業式が行われ、ウクライナから避難しているジブロフスカ・オリビアさんが門出の日を迎えた。日本の小学校で過ごした1年間を「楽しかった」と振り返る一方、「戦争が早く終わって、ウクライナに帰りたい」と母国への思いも口にした。
去年3月、ウクライナが戦火に包まれる中、家族と共に日本に避難してきたオリビアさん。同年4月から弟のヤンさん(小3)とともに同校で学び始めた。「卒業出来てうれしいだけでなく、クラスメート以上の存在に出会えた」と日本の小学校で過ごした1年間を振り返った。同校での一番の思い出は神奈川県箱根町を訪れた修学旅行。「山にある寺が好きになった」と笑顔を見せる。
44人の仲間と迎えた卒業式。オリビアさんは礼服を持っていなかったため、この日は村田校長の娘が着用していたブレザーをプレゼントしてもらい、式に臨んだ。村田校長は笑顔で卒業証書を受け取ったオリビアさんを見て、涙が浮かんだと言う。「言語の壁は厚かったけれど、気持ちは通じたのではないかな」。
授業では英語が得意なクラスメートが通訳したり、翻訳機を使ったりしながら言葉の壁の克服に努めた。京都教育大学の黒田恭史教授らが制作した、ウクライナ語による算数の学習動画も活用したという。村田校長は「本当によく頑張ったと思う。学校に行きたくないと言うようなことも一度もなかった」と語る。
オリビアさんがスムーズに学校生活を送られるよう授業面以外でもサポートした。クラブ紹介などの学校掲示にはウクライナ語の翻訳も書いたほか、この日の卒業式でも、村田校長が式辞を読み上げる際、会場に設置したスクリーンにウクライナ語の翻訳を映した。母のズラベル・オルハさんは「みんなが親切にしてくれた。私たちの気持ちを感じ取って、助けてくれるためにいろいろな事をしてくれた」と感謝する。
しかし、それらの手助けはオリビアさんの懸命な姿があってこそ。「来たくて来たわけではないという環境の中で必死に勉強する姿は、他の児童を『自分も頑張らなくちゃ』という気持ちにさせたと思う」と村田校長。日本語を学ぶための絵本を制作している作家のスーザンももこさんもオリビアさんに関心を寄せ、月2回程度、同校を訪れ、自身の絵本などを使って日本語指導を行った。この取り組みは同校に通う他の日本語を母国語としない児童のために今後も継続されるという。
4月からは弟のヤンさんとともに、都内のインターナショナルスクールに通う。「日本語よりも英語が得意」ということもあり、コミュニケーションという面では心配していないとする一方、「友達と別れるのは寂しい」とこぼす。オルハさんも「通学面が不安。1時間かかる上に、乗り換えもある」と心配を口にする。
出入国在留管理庁によると3月15日現在、ウクライナから日本に2351人が避難している。このうち、445人が18歳未満だ。ウクライナ危機から1年が経過したが、いまだ終結の兆しは見えてこない。学校のグラウンドでは、笑顔でクラスメートと談笑する姿を見せていたものの、オリビアさんの祖国を憂う気持ちが消えることはない。「ウクライナの勝利で、戦争ができるだけ早く終わり、帰国できることを願っている」――。