中教審で始まった教員の「働き方改革」の議論では、公立学校の教員には残業代を支給しないと規定した「給特法」の取り扱いが焦点の一つとなっている。一方、教員の負担軽減を図るには、義務標準法が定める教員定数の算定方法にも目を向けるべきだという声が研究者の間から上がっている。一体、どのような改革が求められているのか。まずは、教員が受け持つ授業数(持ちコマ数)に上限を設け、必要な教員数を算出する発想を盛り込むよう提案している日本教師教育学会の浜田博文会長(筑波大教授)に話を聞いた。
――教員定数の算定方法に、教員1人当たりの持ちコマ数に準拠した発想を盛り込むべきだと考えているそうですね。なぜそう思われるのですか。
教員の仕事時間の最も大きなボリュームを占めているのは授業であり、この部分の仕事を減らさなければ、抜本的な負担軽減は望めないと考えるからです。文科省は近年、「働き方改革」と称してさまざまな取り組みを進めています。例えば、「チーム学校」という構想を掲げ、スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカー、教員業務支援員といったスタッフを拡充してきました。業務のデジタル化も後押ししています。こうした政策は確かに一定の成果を上げている一方、5月に公表された2022年度の教員勤務実態調査からは、勤務時間の劇的な削減にはつながっているように見えません。
教員が定時で仕事を終えられるようにするには、やはり中核業務の授業に切り込むしかないと思います。そのためには、学級数ベースで必要な教員数を計算する現行の義務標準法の仕組みにメスを入れる必要があります。教員1人当たりの週当たりの上限持ちコマ数をまずは設定し、文科省が定める標準授業時数から逆算して各校に必要な教員数を算定する方法を盛り込んではどうかというのが、私の提案です。
――小中学校の教員を大きく増やす方法としてはこれまで、「少人数学級」の推進を求める声が大きかったように思います。この方法では駄目ですか。
少人数学級は教育環境の改善策としては確かに王道だと言えます。教員の負担軽減にも一定の効果が見込めると思います。ただ、21年度の予算編成で小学校の「35人学級」が実現するまで、約40年間にわたって議論が停滞し、この間の教員の業務の増加に対応できなかった点は見逃せません。
波及効果にばらつきがある点にも留意すべきでしょう。例えば35人学級の場合、1学年2学級以上の学校のクラスサイズは、18~35人とかなりの幅となります。18人の学級と35人の学級の担任の先生では、業務量が全く違います。持ちコマ数に上限を設ける形の方が、より公平かつ確実に教員の負担軽減を図ることができるのではないでしょうか。
――文科省も持ちコマ数の削減には意欲を示しており、小学校高学年の教科担任制を拡大しようとしています。
教科担任制を一つのオプションとして、柔軟な指導組織を組むことに異論はありません。配置される教員が増えるのは望ましいことです。ただし、「高学年の特定の教科担任制」という縛りをつけると、学校ごとに異なる実態を踏まえて柔軟な指導組織を工夫することが難しくなります。
若手教員が増え、児童の課題が困難化している小学校の実態からみると、学年や教科にかかわらず、多様な組織づくりがしやすい教員配置が必要です。今の文科省のやり方では対象学年が限られるほか、年度ごとに変動する「加配定数」を活用しているため、不安定な上に恩恵を受けられる学校も一部にとどまります。まずは持ちコマ数の上限を設定し、そのために必要な教員を安定的な「基礎定数」として確保すべきです。その上で、各校の創意工夫として教科担任制を含む柔軟な指導組織の工夫をしていけばさらに大きな効果が期待できるはずです。
――19年度の学校教員統計調査を見ると、公立の小学校教諭の持ち授業数は平均で週24.6コマ、中学校教諭は18.0コマとなっています。具体的にはどのくらいの持ちコマ数を上限とすべきだと考えますか。
優れた授業を展開するには、1コマ当たり20~30分程度の研究や教材づくり、事後の評価や振り返りの時間が必要だと考えられます。また、教員同士の日々の打ち合わせや会議、研修のための時間も当然必要です。打ち合わせなどを勤務時間中に保障するためには、共通の空き時間を確保しなければなりません。これらを勤務時間内に全て収めようと思えば、どんなに詰め込んでも1日4コマが限界でしょう。単純に計算すると週20コマです。ただ、毎日4コマでも負担が大きいと考えられますので、できれば週17、8コマに抑えたいところです。
小学校の先生は1日5コマが当たり前になっています。まともに休憩を取ることもできないまま、ぶっ続けで教壇に立ち続け、子どもたちが下校した後の夕方や、場合によっては自宅で授業準備をせざるを得ないのが実態でしょう。これを何とかしなければなりません。教科担任制となっている中学校の場合、持ちコマ数だけを見るとゆとりがあるように感じますが、生徒指導や進路指導、部活動指導などがあるため、授業準備の時間の確保はやはり難しいのが現状だと思います。これは別途、対応が必要です。
――戦後ずっと続いてきた現行の教員定数の枠組みを変えるのは、ハードルが高いのではないですか。
確かに簡単ではないと思いますが、昨今の「教員不足」の実態を見ても、学校現場は相当に追い詰められており、これまでやってきた「働き方改革」の延長で対応するのは難しいのではないでしょうか。7時間45分という勤務時間内に授業とそれに付随する業務を全て収めるという考え方を組み込むことが、どうしても必要です。それは優れた授業実践につながり、回り回って子どもたちのためになるのです。