ChatGPTなど生成AIを学校現場でどう活用するかを考える教員研修が7月5日、東京都渋谷区立広尾小学校(木田義仁校長、児童242人)で開催された。生成AIに関心のある同校の教員のほかに、近隣校の教員ら約30人が参加した。小学生向けにプログラミング教室などを運営するCA Tech Kidsの上野朝大代表が講師を務め、文科省が前日に公表した「初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン」を踏まえ、生成AIの仕組みや注意点、校務での活用方法などについて解説した。参加者はChatGPTの無料版を実際に使って、保護者や地域に向けたお知らせ文や学級通信の文面をまとめながら、生成AIの長所と短所について理解を深めた。
「ChatGPTを使ったことがない方はいらっしゃいますか?」。研修会の冒頭で上野代表がこう問い掛けると、8割ほどの教員が手を挙げた。生成AIについて「使ったことはないが興味はある」といった同校の教員の声を受け、今回のChatGPT研修会が企画されたという。講師である上野代表は「まずChatGPTが何かを理解してもらい、ゆくゆく校務でどのように活用できるかを何となくでもいいのでイメージできるようにしましょう」と、研修の狙いを説明した。
序盤は上野代表が実際にChatGPTを操作し、その画面を電子黒板で共有しながら、基本的な機能を解説した。まず「今日はChatGPTの教員向けの研修です。あいさつをお願いします」と入力すると、「こんにちは、皆さん。ChatGPT研修におこしいただきありがとうございます」などと、あいさつ文があっという間に表示された。参加者はそのスピードを目の当たりにして、ますます興味を引かれたようだった。
次に「異動のあいさつ文をつくる」「保護者向けのお知らせ文をつくる」「運動会の競技のアイデアを考える」など校務に直結するお題が出され、それに沿って教員たちも手元のタブレット端末でChatGPTに指示を出した。
その上で、ChatGPTの特徴が改めて説明された。上野代表によると、ChatGPTは連想ゲームのような構造で、前の言葉につながりそうな言葉を予測して次々に表示している。そのため情報の正誤が考慮されているわけではない。ここで試しに、ChatGPTに「渋谷区の区長は誰?」と質問してみた。すると「渋谷区の区長は、中込富士子氏です」と表示された。正しくは長谷部健区長で、歴代の区長の中にも「中込富士子」という人物はいない。
上野代表は「何となく検索エンジンのように使ってしまう人が多いが、その使い方は望ましくない。ChatGPTは前の言葉につながりそうな言葉を統計的に表示しているだけなので、内容の正しさは考慮されていないことを忘れないでほしい」と強調した。
今回の研修では、教員が生成AIを校務でどう活用できるかについても取り上げた。文科省が公表したガイドラインでは、校務での活用例として▽練習問題やテスト問題のたたき台▽校外学習などの行程作成のたたき台▽報告書のたたき台▽保護者向けのお知らせ文章のたたき台――などと、文章作成が必要な場面の「たたき台」としての活用を挙げている。上野代表はガイドラインを踏まえながら、「ChatGPTが一番得意かつ、実際にわれわれが便利だと感じられるのは『文章の生成』機能。皆さんが普段やっている業務でも活用できるのではないか」と述べた。その上で、より精度の高い文章を生成するポイントとして、「AIが読み取りやすい文章で指示を出すことが大切」と説明した。
具体的には、①「主旨を明確にする」(その文章の中で伝えたい内容を箇条書きで列挙する)②「条件を明確にする」(読み手や文字数制限、文体など、その文章を書く上で踏まえたいことを箇条書きで列挙する)③「役割を与える」(書き手の立場を明記する)――の3点を挙げた。
3つのポイントを踏まえて、参加者は再度あいさつ文やお知らせ文を作成。指示文の主旨や条件を変えると文章のクオリティーが変わることや、書き手の立場を変えると文章の内容が変わることなどを、繰り返し使いながら体感した。
さらに上野代表は、利用する上での注意点も繰り返し強調した。まずChatGPTには苦手分野があること。例えば、計算。ChatGPTは前の言葉に続く言葉を推測する仕組みのため、計算式の正答率が著しく低いという。実際に計算を指示しても誤答するだけでなく、同じ計算式であるにも関わらず質問するごとに回答が変わったことも印象的だった。
上野代表は「結果をうのみにしないでほしい」と警鐘を鳴らし、業務で活用する場合は誤った情報が表示される可能性を加味して、自身でファクトチェックをするように呼び掛けた。さらにガイドラインで示されたように回答をそのまま使うのではなく、あくまで「たたき台」としての使用にとどめるよう促した。さらにChatGPTの特性上、第三者の執筆物を学習して文章を生成している可能性が高く、「誰かの著作権を侵害する可能性があるという視点を持って使ってほしい」とも説明した。
研修の後半では参加者がグループに分かれて、ChatGPTの可能性について議論を深めた。あるグループでは、膨大な情報量を誇る生成AIを前にして「教員の存在意義とは何かと改めて考えた」という意見が相次いだ。他校から参加した管理職の一人は、「賢く使える人間にならなくてはいけない。教師であること、人間であることの存在意義を問われているようにも感じる。これからの時代を生きていく子どもたちはリスクを踏まえた上で、うまく活用できる力をつけなければいけないと思う」と語った。
今回の研修で初めてChatGPTに触れたという新任教員は「計算もできるし、検索エンジンのように使えると誤認していた。あくまで参考程度に活用しようと思った」と述べた。
研修後、教育新聞のインタビューに応じた木田校長は「われわれの業務にどう生かすかと、児童の教育にどう生かすかの2つの側面がある。特に児童の教育については、年齢制限があるものの、小学校段階でどういう力を身に付けておいた方がいいのかについても考えていく必要がある」と話した。さらに生成AIなど新たな先端技術が台頭する時代の教員像について、「すでに児童は1人1台端末を活用して、自分で解決策を追及できる環境にある。今の教員はその様子を観察し、つまずいた児童をサポートしたり、新たな手段を提案したりする力が求められている。児童が課題に対して、主体的に解決に向かう姿勢をどう掻かき立てていくかが、これからの教員の一番の役割だと感じる」と話した。