完全テレワークの職業体験で新たな選択肢 兵庫県の特別支援学校で

完全テレワークの職業体験で新たな選択肢 兵庫県の特別支援学校で
エクセルの入力業務を体験する和田山特別支援学校高等部2年の堀江さん(スタッフサービス・クラウドワーク提供)
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 完全テレワークで働くと就職の選択肢が広がるかもしれない――。兵庫県の特別支援学校3校の生徒を対象にしたユニークな職業体験が7月13日、行われた。重度身体障害者の在宅就労を進めるスタッフサービス・クラウドワークが主催し、同社のスタッフが講師を務めた。神奈川県の本社と兵庫県の各校の教室をZoomでつなげ、身体に障害のある9人の中高生が参加。生徒たちは、スタッフから遠隔で指示をもらいながらエクセルの入力作業をしたり、実際にテレワークで働くスタッフと交流を深めたりした。職業体験後、生徒からは「進路を考えるときに在宅という選択肢はなかったが、そういう道もあるなと思えた」「テレワークっていいなと思った。家が一番安心する。外だとトイレが使いづらいなど、不便に感じる部分があるかもしれない」などと、働き方の新たな可能性に気が付いたようだった。

「家でできる仕事もある」と知ってほしい

 参加したのは、県立和田山特別支援学校(野口照正校長、児童生徒55人)、県立播磨特別支援学校(藤井生也校長、生徒111人)、県立氷上特別支援学校(八乙女利恵校長、児童生徒95人)の生徒で、このうち中学部2人、高等部7人の合計9人。

 プログラムの冒頭で、スタッフから同社のテレワーク勤務について説明があった。同社では全国に約450人の在宅社員が勤務しており、パソコンを使った入力業務やネット検索を活用した調査業務などに従事している。社員同士のコミュニケーションを大切にするため1日にミーティングや雑談の時間を複数回取ったり、体調や通院に合わせて勤務シフトを自分で決められたりなど、工夫点が紹介された。その上で、講師のスタッフからは「テレワークは自ら発信することが大切。コミュニケーションを取ることを心掛けると、楽しく働ける」とアドバイスがあった。

 次に中学部と高等部に分かれて、カリキュラムが実施された。

 高等部の生徒はエクセルの入力作業に挑戦し、テレワークで就業する具体的なイメージをつかんだ。「今日は分からないことがあったら、隣にいる先生ではなく勇気を出して私に質問してみてください」と、オンラインでつながった講師から目標が示された。

 作業に入ると、最初こそ緊張気味で口数の少なかった生徒たちだが、時間を経るごとに「質問してもいいですか?」と積極的に発言する姿が見られた。「Zoomを使いながらエクセルを開く方法を教えてください」「エクセルの表を2つ並べる方法が分かりません」など細かい質問にも、講師が「右上の『横線』マークを押してみて」などと的確に指示を出し、スムーズに進行していた。

 後半では同社で在宅勤務する社員が登場し、生徒が抱く疑問に答えた。テレワークの良い面だけでなく難しい面も共有され、「通勤がないので便利な反面、自宅に家族がいるので、『仕事中は部屋に入らないでほしい』と頼むなど、気を遣いながら仕事しなければいけない。メリハリの付け方が難しい面もある」などと、当事者だからこそのアドバイスもあった。生徒たちは真剣なまなざしで聞き入っていた。

 一方、中学部の生徒は「仕事」をテーマにしたグループワークを中心に展開し、同社のスタッフたちを巻き込み大いに盛り上がった。

オンライン上でグループワークに挑む中学部の生徒たち(スタッフサービス・クラウドワーク提供)
オンライン上でグループワークに挑む中学部の生徒たち(スタッフサービス・クラウドワーク提供)

 ワークの一つでは、警察官や看護師、事務員、政治家などさまざまな職業の就業場所について考えを深めた。「政治家は家ではさすがにできないから、会社かな。でも選挙のときは外だよね」「ヒカキンみたいなクリエーターは、家で撮影も編集もやっている。外でも編集しているかな」「消防官は外で火事の現場に行く必要がある」などと、初対面のスタッフもいる中でしっかりと自分の考えを伝える生徒の姿が印象的だった。講師は「職業や働き方はいろいろある。働く場所も会社や外、学校、工事現場などさまざま。家でできる仕事もあることを、皆さんに知ってほしい」と強調した。

通勤がネックになり諦めている現状

 授業後、教育新聞の取材に応じた和田山特別支援学校高等部2年の堀江奈桜(なお)さんは「片手しか動かすことができないので、片手でパソコンを操作するのが難しかった。でもパソコンやエクセルが好きなので、入力作業が楽しかった。テレワークでは社員同士の交流がないと思っていたが、今日の説明で交流していると聞いていいなと思った」と振り返った。

 同じく同校中学部の大林正乃丞(せいのすけ)さんは、テレワークで働くことについて、「これまでシフトは自分で決められないと思っていたけれど、自分でシフトを決められるのは自分にとってよいと思った。雑談を楽しむという点もよかった。10~20分でも相手のことを知れるのは、親しみを持てるきっかけになりそう。なかなか直接は会えないけれど、オンライン画面でおしゃべりを楽しめるのはいいことだと思う」と語った。

 また同校の進路指導部長である西岡敬生(たかのり)教諭は、昨年度に引き続き2回目の参加で前回参加した生徒の変化を発見できたという。「前回は自分から発信して分からないことを聞けなかった生徒が、今回は自分から発信して課題解決しようとする姿をみてよかったと感じた」と、生徒をねぎらった。

 今回の取り組みは、兵庫県教育員会が文科省から受託した「ICT人材育成のための指導の在り方に関する調査研究事業」の一環。同社エリア統括部の岡崎正洋ゼネラルマネージャーは、特別支援学校の生徒の就職について「例えば(設備の整っている)企業は都市部に固まっていたり、福祉事業所は設備が整っていなかったりと、通勤がネックになり諦めている現状がある。当社では実際に特別支援学校の出身者が就職して、戦力になっている。先生方には、テレワークという選択肢をもっと広く知ってほしい」と強調した。

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