大阪府が2024年度から段階的に進める案を示している私立高校授業料の「完全無償化」を巡り、府が提示している方法では私学経営が圧迫され、逆に保護者負担が増える可能性もあるとして、府内の私立中学校や高校で構成する「大阪私立中学校高等学校連合会」(中高連)などの団体が7月27日、永岡桂子文科相と面会し、府との協議への協力を求めた。面会は冒頭を除いて非公開で行われたが、終了後に取材に応じた私学側の出席者や文科省関係者によると、永岡文科相は「大阪府知事の責任で行われるもの」との認識を示した上で、「子どもファーストで考え、関係者の間で話し合っていただきたい」などと応じたという。
大阪府の吉村洋文知事は5月、府が実施している私立高校の授業料の無償化制度について、現行の所得制限をなくし、全ての生徒を対象とする「完全無償化」に踏み切る案を公表した。24年度に高校3年生の所得制限を撤廃し、25年度以降は1学年ずつ広げていくことで、26年度の完成を目指す。これまでは府内の私立高校に通っているケースのみを対象としていたが、今回の制度改正に合わせて、府内在住で府外の私立高校に通学している生徒にも対象を拡大する。
これに対し、大阪を中心に私学団体は反発している。特に問題視しているのは、60万円という授業料の上限を設定し、実際の授業料がこれを上回っている場合、保護者ではなく、学校側に負担させる「キャップ制」という仕組みだ。この制度を維持したまま、所得制限が撤廃されて無償化の対象生徒が増えた場合、授業料が60万円に収まらない高校では、学校側の負担が膨らむことになるため、中高連は府に再考を求めている。
27日の面会では、府内の私立中学校や高校の保護者らでつくる「大阪私立中学校高等学校保護者会連合会」が、「近畿地区私立中学高等学校保護者会連合会連絡協議会」との連名による意見書を永岡文科相に提出した。意見書は私立高校の授業料について、「さまざまな教育内容に応じて設定されているのは当然」とした上で、「標準授業料という名のキャップを被せ、学校が教育内容を維持できなくなれば、いままでどおりの教育を受けることができなくなる」と大阪府の無償化の方法に懸念を示した。また、私立高校の経営基盤を支える「経常費補助金」の水準が、大阪府は他の都道府県に比べて低いことも指摘している。
面会には中高連の幹部らも同席し、「キャップ制」について「カルテルのような価格統制であり、一定の価格の中でしかできないことになれば、私学の教育の質は低下し、独自性が発揮できなくなる」といった趣旨の問題意識を伝えたという。面会後に取材に応じた平岡宏一副会長(清風高校長)は「(今回の大阪府の制度改正は)私たちの意見を聞かずに発表され、結果的に私学の教育レベルが維持できなくなる危惧がある。私たちがより良い形で府と話し合える環境づくりをお願いしたい」と語った。
文科省私学行政課はこれまで、関係者で協議をして制度設計をするよう大阪府に促してきた。大阪府私学課は今後の交渉の在り方などについて、27日の教育新聞の電話取材に対し、「本日は担当者が不在のため答えられない」とした。