「先生、俺ってできる子だよな」
怠学傾向との申し送りのあった中学生の言葉です。
私が勤務する適応指導教室では、先生と生徒が1対1で進める個別授業と自習が学習の基本になっています。不登校の子どもの学習進度はさまざまで、学年相当やそれ以上の内容の学習ができる子もいれば、3学年以上の遅れがある子もいます。
個別授業の良さは、学年に関係なく、必要があるところまでさかのぼってその子に合った学習が積み重ねられることです。どこでつまずいているかも分かりますし、一人一人に適した学習法を見つけ出すこともできます。学習障害の子どもにも有効です。ただし、子どもの数に対して教える側の大人の数が少ないので、授業数が少ないという大きな欠点があります。
他の施設では、一人一人が自分の課題を行い、先生が巡回しながら質問を受ける形式や、集団授業を実施しているケースもあるようです。より効果的な支援法について、私も教えを請いたいですし、各施設の実践を共有する場が必要だと考えています。
さて、冒頭の中学生ですが、当初は個別授業でも「勉強はしたくない」の一点張りでした。しかし、しばらく寄り添ううちに「勉強が分からなくてずっと苦しかった」と思いを話してくれました。その後、学年をかなりさかのぼって学習を行い、一人で課題ができた時に「先生、俺ってできる子だよな」と満面の笑顔で言ったのです。
後に、「ケアがあっての学び」という言葉を聞いた時に、深く納得しました。勉強することをちゅうちょする子どもたちは、勉強が分からない痛みや遅れていくことへの焦り、そして将来への不安などさまざまな思いを抱えています。だからこそ、まずは心を癒やし、安心する時間が必要なのです。「最近、何か楽しいことあった?」など、授業を開始する前の何気ないおしゃべりで、学びに向かう準備ができる子もいます。
何学年分もの学習の遅れをどうすれば取り戻すことができるのかと心配でならず、できることを増やそうと教え込んでいた時期もありました。しかし、多くの卒業生が、苦労しながらも進学や就職をして、自らの道を歩む姿を見て考えが変わりました。その子なりのその時その時の学びを充実させ、学びに向かう思いや意欲を育み、自信を育てていくことが大切なのだと。