児童生徒が1人1台のデジタル端末を使って学ぶ「GIGAスクール構想」の進展を見据えた学校運営や授業づくりを考える「校長サミット」が9月3日、東京都港区で開かれた。埼玉県戸田市でさまざまな教育改革を進めてきた同市教育長の戸ヶ﨑勤氏、GIGAスクール構想に関する文科省の有識者会議などの委員を務めてきた東京学芸大教授の高橋純氏、中教審初等中等教育分科会教育課程部会のメンバーとして現行の学習指導要領づくりに関わった上智大教授の奈須正裕氏の3氏が、それぞれの立場から今後の学校の姿を展望した。
教職員向けの専門書を発行している「教育開発研究所」(東京都文京区)と、記憶を定着させるための学習アプリを学校現場などに提供している「モノグサ」(東京都千代田区)が共催。小中学校や高校の校長らを中心に約100人が参加した。
戸ヶ﨑氏は2015年に教育長に就任後、教育委員会の学校に対する関わりを「一律の管理」から「個別の支援」へと転換し、校長を中心とした各校のマネジメント力を強化してきたことを説明した。校内システムや保護者との連絡手段のデジタル化を徹底して進めた結果、市内の小中学校の教員の「在校等時間」は県内でも有数の短さとなっているという。
一方、教育改革の一環として、AIで代替することが難しい力の育成に力を入れてきたといい、「夏休みの読者感想文など、AIに取って代わられるようなことは見直しをしていくべきなのではないか」と述べた。ChatGPTに代表される生成AIについては、その利便性を認めつつ、「もっともらしいうそを出してくる」とも指摘。「本当に真実なのかどうか見抜く力を、早急に子どもたちも教員も身に付けていかなくてはいけない」と強調した。対策として、戸田市ではあえてフェイク情報を作り、授業の中でファクトチェックをするような学習活動を実施していることも紹介した。
次に登壇した高橋氏は、これまでの学校教育を「教師が知っている山を登る練習」と表現し、未知の山を登るような学習と対比させた。その上で「両方やらなければいけないと思うが、子どもには僕らが登ったことのない未知の山、高い山に登ってもらわないといけない」と強調。記憶・再生をゴールとする従来型の学習から、それだけではなく実際に行動できることをゴールとする「コンピテンシーベース」の教育に変えていくことを提案した。
高橋氏はこうした学習の転換を進める際、GIGA端末をはじめとしたICTが武器になり得るとの認識を示した。実際にICTを活用しながら、児童生徒がそれぞれのペースとやり方で与えられた課題に取り組む「複線型」の授業を展開している事例として、愛知県春日井市立高森台中学校を提示。教師の説明を聞きたい生徒は黒板の前に集まり、自分のペースで学習を進めたい生徒は自席で課題に取り組んでいる授業の風景を見せた上で、「一人一人の子どもを主語にするということを考えたことがない先生はいないと思う。この考え方に立つならば、『複線型』の授業にならざるを得ない」と語った。
奈須氏は21年1月の中教審答申が打ち出した「令和の日本型学校教育」の考え方について、「正解主義と同調圧力を克服する」ことだと解説。日本の教育の良い面として、子どもたちの「知・徳・体」を一体的に育む点を挙げつつ、「同じことを同じようにというのは一定程度必要だが、やり過ぎて忖度(そんたく)する社会になってしまった。これをやめないとこの国は持たない」と現行の一斉指導に関する課題を説明した。「子どもは学ぼうとしているし、学べる存在だと考え、先生がいなくても学べるようにするために教えよう」と呼び掛けた。
その上で、今後の教師の役割は学ぶための「環境」を整えることだと強調。子どもたちがGIGA端末などを活用して「環境」にアクセスし、必要なものを自分で選んで学んでいく学習モデルを示し、「子ども観の転換と授業のパラダイムシフトが大事だ」と訴えた。