10月になり、今夏に実施された教員採用試験の結果が明らかになってきた。合格者はひと息ついているところであろう。これから来年4月の着任に向けて教委や学校などの面接が始まり、着任校の決定などが行われる。合格から実際に教壇に立つまでどのような流れで進んでいくのか、留意点に触れながら紹介しよう。
教採試験に合格とは、採用候補者名簿に登載されるということで、まだ教壇に立てると決まったわけではない。教委などによる面接を経て着任校が決まるのである。この名簿に登載される人数は、採用予定者数より多い。各自治体において採用数の調整を行い、この名簿の中から採用していくわけだ。
合格者に対しては、10月から11月にかけて教採試験を実施した自治体の説明会が開かれる。最近の採用状況や今後のスケジュールなどについての説明が行われる。提出書類の説明、健康診断などもあるので、必ず出席し内容を確認して的確に対応しなくてはならない。
続いて合格者を対象に教委(都道府県市区町村)や学校長などによる面接が適宜行われる。そのために面接の日時や場所などについて連絡が来る。これらの連絡に適切に対応しなくてはならない。現在は主にメールだが、電話連絡もある。関連の書面があるなら隅々までよく読む、電話なら最後に内容を確かめる。それらに従って行動しなくてはならない。
教委の指導主事や校長など学校管理職らによる面接は、試験ではないので緊張する必要はない。しかし、服装などは試験時と同様、社会人として適切な服装を心掛よう。
何のための面接かというと、この人物はどの学校に適しているかを判断するためのものであると思ってよい。質問の回答と学校の実情に照らし合わせて、配属先を決めるのである。
提出した履歴関係の書類をもとにした質問が行われるので、書いた内容をきちんと覚えておくようにしたい。聞かれたことに誠実に答えればよいわけである。学校でのボランティアや講師などの体験の有無、学生時代の部活動・サークル活動、体調など健康に関すること、住まいと通勤ルートなどについて聞かれることが多い。
だからと言って軽く見てはいけない。改めて教員への思いや教育に対する考え方などが問われることも少なくない。試験と同じ心構えで臨み、その自治体の教育の特色や教育目標などはあらかじめ調べておきたい。
教委から着任する学校が示されると、次に学校から連絡があり、校長、副校長、教頭など管理職と直接面談する機会が設けられる。所属学年、学級、教科、部活動、校務分掌などについて説明があるはずである。メモを取るなどして、しっかりと把握しよう。また、介護や子育てなどの家庭事情、通院や結婚などの個人的な事情は、このときに正直に話し、相談しておいた方がよい。
来年4月の着任までどのようなことに取り組んでおくとよいのか、実際に教員たちから聞いた事例を列挙しておく。
▽恩師に会う…就職が決まったことの報告を兼ねて、アポイントを取ってから学校や自宅を訪ねてみる。直接今の子供や保護者の様子、学校の変化、教師の仕事などを聞いてみる。そして教員としての覚悟や心構えを少しずつ持つようにする。
▽病気の治療・体調管理…持病があったり、体調がよくなかったりする場合、あるいはけが、歯痛などは必ず病院で治療をする。また、日々、食事や睡眠に留意し、体調管理に努める。
▽実家に帰る・友人に会う…将来のこと、不安や期待などいろいろな話をしてみよう。家族や友人との旅行もよい。自分は一人ではないこと、つながりを感じ取り、元気をもらってくるようにする。
▽体力づくり…しばらく運動をしていなかった人もいるであろう。1カ月だけでもいいからプールやフィットネスジムに通ったり、ウォーキングなどをしたりして健康維持と体力向上に努める。できれば着任した4月以降も続けた方がよい。
▽買いそろえる…体操着、運動靴、上履き、タオル、湯のみなどは初日から使用する頻度が高い。動きやすいように、慌てないようにするためにも前もって購入し用意しておくとよい。通勤着も保護者や地域の人が意外と見ているので、社会人として恥ずかしくない服装や髪型を心掛ける。また、入学式や学校の創立記念の周年行事のほか、地域や保護者、同僚などの冠婚葬祭に出席することも少なくない。略礼服を用意しておくと便利である。
▽通勤に慣れる…4月に通勤手段と経路を届け出ることになる。その届け出に基づいて通勤手当が支給される。電車、バス、自転車、徒歩などどの交通機関が効率的なのか、どの時刻に乗ればいいのか、どの道を通ると近いのか、検証しておこう。届け出の内容と実際の通勤方法が異なる場合は通勤手当の詐取問題となる場合がある。
▽評価の勉強をする…通知表の評価・評定や所見の記入の仕方などは大学の授業では不十分である。3学期制の学校では着任から3カ月後の7月には通知表を作成することになる。絶対評価と相対評価の違い、AとBとCの違い、児童生徒や保護者に「どうしてこの成績なんですか」と聞かれたらどのように答えるか、など評価は大きな課題である。要は、教師の感情や思い込みで付けているのではなく、根拠に基づいていることをきちんと説明できればよい。そのために評価の基礎知識と方法、評価のための材料の集め方を今から勉強しておこう。医者は症状や検査の結果などから診断をする。検察官や裁判官などは法規や過去の判例に基づいて判決を下す。教員も同じく人を評価して導く仕事である。だからこそ尊い職業であり、高い専門性が求められるのである。
▽配属校の地域を知っておく…配属校が決まったら、ぜひ先んじて地域を知ることに努めよう。着任すると、忙しさのために家と学校をただ毎日行ったり来たりしているだけという状況になるかもしれない。学校は地域とともに存在している。子供たちは、毎日そこで生活し育っている。そんな地域のさまざまな環境を知ることは教育活動を進めていく上で極めて重要である。
何も予定をしっかりと立てて取り組むということではなく、時間が空いた時にふらっと向かってみるとよいだろう。公園、商店街、工場、ゲームセンター、図書館などの施設、塾の有無といったものの確認から、交差点、交番、消火器、AEDのある場所、交通状況など子供たちの安全に関わる施設・設備の確認なども地域を知る上で重要である。土日などの休日を活用して地域に出掛け、公園や商店街などで遊ぶ子供たちの様子を見てみるのもよいだろう。子供たちの特徴があらかじめつかめるかもしれない。また、学習活動を進めて行く上でも地域を知ることは重要である。総合的な学習の時間、社会科、生活科などの指導に当たっては、学校の地域をよく知っておくことが必要である。地域を知っておくことで多くの情報が得られるものである。