【新卒副校長の学校改革】 YouTuberからの転身

【新卒副校長の学校改革】 YouTuberからの転身
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 広島県の私学・広島桜が丘高校は現在、学校改革に取り組んでいる。けん引するのは、大卒1年目で就任した25歳の桐原琢副校長。勉強法や受験対策を発信する人気の教育系YouTuberだが、学校現場は初めてだという。そんな桐原副校長を中心に、同校では定期テストや教員主導の行事、教員が一方的に話すのみの授業を廃止するなど、新たな取り組みを展開している。副校長就任から半年が過ぎた今、学校改革の現状を聞いた。(全3回)

「環境によらず受けたい教育が受けられる社会」を目指す

――新卒1年目で副校長に就任されましたが、その前の1年間は「教育アドバイザー」という立場で広島桜が丘高校と関わられていたそうですね。

 はい。広島桜が丘高校には系列の姉妹校に広島県瀬戸内高校があるのですが、そこでは予備校の先生を放課後に呼んで授業をする「校内予備校」が行われています。同校を運営しているRGBサリヴァンの土岐靖社長から、「学校改革をぜひ一緒にやってみませんか?」とお話をいただいたんです。それが一昨年、私が大学3年生の時でした。

 私は当時、教育系YouTuberをやっていて、大学卒業後の進路選択として、そのYouTubeチャンネルの運営会社に残るか、教育業界の企業に就職するか、あるいはいったん教育を離れてみるのもいいのかなどと、悩んでいた時期でした。

 土岐社長は、以前から教育系YouTuberに注目されていたそうです。一昔前まではカリスマ予備校講師のような方が、教育界を盛り上げていました。その方たちが年齢を重ねていく中、今後は教育系YouTuberが教育界に火をつけるんじゃないかと考えられていたそうです。

――大学卒業後の進路として教育に携わっていきたいと考えたのは、何かきっかけがあったのですか。

2浪の経験が教育改革への思いを強くしたと話す桐原副校長

 私は大学受験で2浪しているんですが、2浪目の時に、「自分は恵まれた環境にいるんだ」ということに気付いたんです。家庭的には決して裕福ではないのに、親が借金までして浪人をさせてくれていました。一方で、友達の中には大学に行きたいのに行けない人もいて、「自分はなんて恵まれているんだ」と思いました。

 その時、なぜ置かれた環境によって受けられる教育が違ってくるんだろうと思いました。もし、国の教育システムを変えられたら、置かれた環境によらず受けたい教育を受けられるようになるんじゃないか…。そう考えて、当時は官僚を目指そうと思っていました。

 ただ、実際に文科省の方から話を聞くと、現実にはそう簡単に状況は変えられないとのことでした。そんな中でも、「教育を変えたい」「何事にも挑戦できる人材づくりをしていきたい」という話を、土岐社長にはしていたんです。そうした経緯もあって、「教育アドバイザー」の話を最初にいただきました。

 理事長にも「中学校や高校で苦労した子どもたちをぜひ救いたいんです」というお話をさせていただいたんですが、小児科医で子ども好きな理事長は「ぜひ、子どもたちをわくわくさせてください」「理想の学校を作ってください」と言ってくださいました。そうして昨年1年間は、教育アドバイザーとして関わらせていただきました。

 昨年の夏休み前までは、だいたい2週間に1回ぐらいの割合で広島桜が丘高校を訪問し、学校行事にもほぼ全て参加させてもらいました。そうして先生方からヒアリングを重ね、課題意識などを把握した上で学校改革の骨子を昨年前半にまとめ、9月からは具体的な改革案を固めていきました。

 昨年後半は大学生をやりつつ、週3日ぐらい広島に通っていました。当時は、外部の立場からコンサル的にアドバイスをしながら学校改革に関わっていくのだろうと思っていました。ところが突然、昨年12月に「副校長にならないか」との打診をいただきました。「現場に入って教員、生徒たちと一緒に改革に取り組んでほしい」と理事長と校長から言われ、二つ返事で広島に移住することを決めました。

 正直、最初に副校長の話をいただいたときは、不安な気持ちがなかったかと言えばうそになります。でも、「こんなチャンスはもう二度とないだろう」「全力でやるしかない」という気持ちの方が大きかったですね。新卒1年目の人間ができることは限られているし、多分できないことの方が多い。だから、そこは現場の先生方に頼るしかない。そうした気持ちで、打診を受けることにしました。

――ちなみに桐原さんの前に「副校長」というポストはあったのでしょうか。

 いえ、ありませんでした。本当に新しいポジションを用意していただきました。

授業改革で一斉授業から脱却

――アドバイザーをされていた昨年度は、どのような課題を感じていましたか。

 やはり、先生方がかなり疲れているなと思いました。そして、生徒も疲れている。先生の業務がこんなにも多いのかというのが率直な印象でした。

 昨年1年間は話を聞くだけの立場でしたが、それでも先生方と話をしながら業務を整理するなどしていました。でも、いざ現場で働き始めるとイレギュラーなこともたくさんあります。それこそ、遠足へ行くにしても危険がないか事前調査しないといけないし、生徒が問題行動を起こせばその都度指導しないといけません。本来、外に任せていかないといけないことも、全て学校の先生方が担ってしまっているような状況がありました。

 保護者や地域住民など外部の人から、そこまでやらないといけない場所と思われているのが、おそらく今の学校です。一方の生徒も、宿題があったり定期テストもあったり部活動があったりする中で、細かいことをたくさん指導・注意される。少子化は言い換えれば大人が多いという状態です。たくさんの大人に囲まれて、転ぶ前に繰り返し注意をされて、おそらく子どもも疲れているんだろうなと思いました。

 先生方からは、やはり日頃の業務に追われて授業準備が後回しになってしまうという話を聞き、当初は「授業が一番大事なのに、なんでだろう」と思っていました。でも、今年度になって私自身も授業を持つようになり、家に持ち帰って授業準備をしないといけない状況が発生するなど、とてもよく分かります。

「教員も生徒も疲れている」と感じたという
「教員も生徒も疲れている」と感じたという

――今年度はどんな取り組みを進めているのでしょうか。

 例えば、学校改革の一つとして授業に「単元マップ」を取り入れています。単元マップは授業、「a:教師による個別支援」「b:教師による今まで通りの授業スタイル」「c:学習者による個別学習」「d:生徒によるグループワーク」の4つのブロックに分けて、その単元の各授業がa~dのどのタイプで、どういう組み合わせになるか分類しています。その単元が始まる前に、a~dを事前に設定して、それを生徒が行えるように設計図を描くんです。

――「単元マップ」は全ての教科で導入したのでしょうか。

 そうですね。狙いは非認知能力の育成と一斉授業のみからの脱却です。ある意味、学校は何も変えなければ前例を繰り返し続けてしまう側面があるんです。そこで授業スタイルを一新しようと挑戦しています。

 生徒に対しては、単元マップを最初に提示する場合もあれば、ギミックの部分を隠すこともあるなど、科目によって取り組み方は異なります。でも、事前に提示した場合は、生徒がその授業のために準備してくるなんてこともあります。「先を見て自分で考えて行動する」ことにつながる効果もある実践だということが、試してみながら見えてきたというのが現在の状況です。

【プロフィール】

桐原琢(きりはら・たくま) 1998年生まれ、茨城県出身。東京大学合格を目指し2浪するも、1点差で不合格となり、中央大学法学部へ進学。「置かれた環境によらず、受けたいと思う教育を受けられる環境づくり」を目指し、在学中に受験勉強YouTubeチャンネル「PASSLABO」を立ち上げ、登録者数は32万人に上る。昨年度から広島桜が丘高校のアドバイザーとして関わり、今年度から副校長に就任。

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