前回示したように、学級編制標準(学級規模の上限)を引き下げる形の少人数学級政策は、児童生徒だけでなく、教員配置数の増加を通して教員にも影響を及ぼす。今回はまず、児童生徒に与える効果を見ていくこととしよう。
学級規模が児童生徒に及ぼす影響のうち、古くから研究が行われ、近年に至っても活発に研究されているのは学力への効果である。中でも有名なのは「グラス=スミス曲線」であろう。この曲線は、横軸に学級規模、縦軸に平均学力を取ってグラフを描いたときの右下がりの関係性を示すもので、発表から40年近くたった現在でも有力なエビデンスとして目にする機会が多い。
近年では、現代的な因果推論の手法を適用した研究が進んでいる。因果推論とは、変数間の因果関係を推測する統計的手法を指す。少人数学級の文脈に置き換えれば、学級規模を原因、児童生徒の学力を結果とするような因果関係が本当に存在するのかを統計的に推測・評価する、ということになる。
因果推論には幾つかの手法が用いられる。中でも信頼性が高いとされるのが「ランダム化比較試験」(RCT)と呼ばれる実験的な手法である。RCTでは、被験者を無作為に2つのグループに割り当てた上で一方にだけ介入を実施し、グループ間の結果を比較する。グループ間には介入の有無しか違いがないので、グループ間に発生した結果の差を介入がもたらした効果と解釈することができる。
とはいえ、生身の児童生徒を対象とした実験の実施は、決して不可能ではないが簡単ではない。そのため教育分野では、実験以外の手法が活用されることが多い。その中で有力とされるのが、偶然によって学級規模に違いが生まれた状況を活用するという手法である。
前回示したように、日本では学級編制の標準(あるいは都道府県が定める基準)に基づいて学級が編制されるため、学年の人数によって学級規模に違いが生まれる。年度開始時点の学年人数が何人になるかは偶然による要素が大きいので、編制された学級の規模もまた偶然によって決定される、と考えるのである。
筆者は、こうした手法を活用して日本の小学4年生のデータを分析し、学級規模が児童の学力に与える因果効果を統計的に推定した。その結果、少人数学級は学力の向上をもたらすことが確認された。学級規模を10人縮小したときの効果の大きさ(偏差値換算)は、算数学力が+0.91、理科学力が+0.84であった。