駒澤大学経済学部教授
教員採用試験の競争率が低下した背景として、女性受験者の減少も挙げることができる。1990年代半ば以降、女性受験者の比率は低下を続け、最新の2022年は小学校が39.4%、中学校が26.7%にまで激減している。教職の不人気化、それに伴う採用倍率の低下は、相対的には男性よりも女性において、より深刻化していると考えられる。
少人数学級が児童生徒に好ましい効果をもたらし、教員の就業環境の改善につながるとしても、それはあくまで必要な教員を確保できた場合の話である。ただ、教員の質の低下による負の効果と相殺され、期待されるほどの効果をもたらさないかもしれない。量と質の両面で必要な教員を確保することは、少人数学級政策の実現可能性だけでなく、効果の大きさをも左右する重要な課題と言える。
教員配置数の増加は、教員の働き方や就業環境にどのような影響をもたらすのだろうか。今回は筆者による最近の研究成果を紹介する。分析には「国際教員指導環境調査」(TALIS)の2018年調査に参加した日本の学校教員のデータを使用している。この研究では、学校レベルで算出した児童生徒教師比率(学校全体の児童生徒数を教員数で除したもの)に注目している。
学校教員の多忙は、もはや社会の共通認識だと言っても過言ではない。4月に公表された教員勤務実態調査の速報値によると、教諭の平日の平均在校等時間は小学校10時間45分、中学校11時間1分で、前回調査に比べていずれも30分程度の減少と報告されている。とはいえ、過労死ラインに相当する週60時間以上の勤務をしている教員の割合は小学校14.2%、中学校では36.6%に達している。
非認知能力にはさまざまな心理的特性が含まれる。その中には、個々人に生まれつき備わっているような特性もあるが、注目すべきは家庭や学校における働き掛けによって変化し得るような特性である。本連載のテーマである少人数学級は、子どもたちの非認知能力を高める効果を持つのだろうか。
近年、教育政策を議論する際に学力と並んで注目されているのが「非認知能力」である。知能検査で測られる知能やペーパーテスト等で測られる学力を「認知能力」と呼ぶ。非認知能力はその否定形、すなわち知能や学力ではない何らかの特性を指している。ここで注意したいのは「非」という言葉のかかり方である。非認知能力は「非・認知能力」であって、「非認知・能力」ではない。
前回、学級規模の縮小が児童生徒の学力を向上させる効果を持つことを示したが、そのことについて分析を進めた結果、以下の2点が追加的に明らかとなっている。1つ目は、学級規模を大胆に縮小したときに学力向上の効果が大きくなるという点である。学級規模を10人縮小するといっても、40人を30人にする場合と、30人を20人にする場合とでは効果の大きさが異なる。
前回示したように、学級編制標準(学級規模の上限)を引き下げる形の少人数学級政策は、児童生徒だけでなく、教員配置数の増加を通して教員にも影響を及ぼす。今回はまず、児童生徒に与える効果を見ていくこととしよう。学級規模が児童生徒に及ぼす影響のうち、古くから研究が行われ、近年に至っても活発に研究されているのは学力への効果である。中でも有名なのは「グラス=スミス曲線」であろう。
公立義務教育諸学校の学級編制の仕組みは「公立義務教育諸学校の学級編制及び教職員定数の標準に関する法律」(義務標準法)に定められている。現在、義務標準法は同学年で編制する学級(単式学級)の上限人数の標準(学級編制標準)を「小学校1~4年=35人」「小学校5~6年=40人」「中学校=40人」と定めている(2023年度現在)。
本連載では「エビデンスで示す少人数学級の効果」と題して、少人数学級政策がもたらす効果について多面的に考えたい。 初めに、タイトルにもある「エビデンス」という言葉について整理する。日本語では単に「根拠」や「証拠」と訳されたり、頭に言葉を足して「科学的な根拠」や「客観的な証拠」と訳されたりするが、その解釈は一様ではないように見受けられる。
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